どんな仕事もやり方はいろいろあるが、農業はとくに多様性に富んだ仕事だとつくづく思う。ひとつの品目に絞った経営もあれば、複合経営もある。兼業農家もいれば、専業農家もいる。今回とりあげるのは、一見、兼業農家のバリエーションのひとつにみえるかもしれない。

梅の実の収穫や栗拾いから

 紹介するのは、東京都多摩市の青木幸子さん。地場の農産物を扱う新型の八百屋「しゅんかしゅんか」に野菜を納める生産者だ。トマトやナス、ピーマンなど70種類の野菜のほか、キウイや栗などの果樹もつくっている。

 結婚し、多摩市に引っ越してきたのが約30年前。夫の家は農家だったが、自分が農業をやることになるとは想像もしていなかった。「サラリーマンの夫とふつうに生活すると思ってました」。

 マンションや住宅がびっしりと立ち並ぶいまの町並みからはイメージしにくいが、当時はまだ田んぼや畑がたくさん残っていた。日が暮れたあと、大通りの明かりを目指し、仕事帰りの夫を迎えに行った。ふり返ると、家の方角には漆黒の深い闇が広がっていた。怖くてひとりで戻る気にはなれなかった。

この畑の栗拾いから青木幸子さんの農業は始まった(東京都多摩市)

 農業との接点は、はじめはささやかなものだった。例えば、田植えのとき、田んぼに昼飯を持っていった。「お疲れさま」あぜに腰掛けた親戚に、そう言ってお茶を渡しながら、「まるでドラマのシーンみたいだ」と思ったりした。

 梅の実の収穫や栗拾いを手伝ったりもした。数十キロ分の栗を踏んで中から実を取り出し、洗って選別し、市場に運ぶとき、「農業って大変だ」と実感した。子どもも、畑でニワトリやウサギを追い回して遊んでいることが多かった。だが、自分が中心になって農業をやる日が来るとは思っていなかった。