食味値や農家の名前を前面に出したブランド(大阪府吹田市のアップファーム本社)

 「ブレンド」と銘打っているように、複数の農家のコメを混ぜる。シェフのリクエストにきめ細かく応えるには、1つのコメだけでは対応できないと思ったからだ。とは言っても、混ぜるのはそれぞれ2人の農家のコメに限定した。それ以上混ぜても味をイメージしにくいことに加え、「生産者の顔の見えるコメ」という本来のコンセプトが後退してしまうためだ。

赤飯のようにモチモチ

 では5人はどんなコメを家で食べたいと答えたのか。アップファームの代表の高橋隆造氏によると、一番印象に残ったのは「昔食べたコメをもう一回食べたい。祖母が炊いてくれたご飯を再現してほしい」というリクエストだったという。どんなご飯だったのかをシェフに具体的に聞くと、答えは「赤飯のようにすごくモチモチしていた」。

 赤飯や餅そのものが思い出に残っているのなら、シェフもそういうリクエストを出しただろう。だが、シェフが求めたのは赤飯や餅そのものではなく、「赤飯のようにモチモチしたご飯」だった。この要望を受けたとき、高橋氏はベテランの農家から聞いていた次の話を思い出したという。

 「コシヒカリとか、コメを品種で分けるのは最近の話。田んぼの水口から冷たい水が入ってきて、田んぼの中に水が拡がるうちに水温が上がる。水口は普通のコメは育ちにくいので、水が冷たくても育つ強いもち米を植えた。なので、コメの中にもち米が混ざっていた」

 田んぼの前での農家との立ち話を思い出した高橋氏は、アミロースが少なく、もち米に近い品種を作る農家と、タンパクの含有量が多めで、少し硬い品種を作る農家のコメを選定し、2つの比率を調整してシェフに提案した。一人の農家に焦点を当てることには当然、意味がある。だがブレンドの妙味も、ご飯の楽しみ方の1つだと再評価させてくれるエピソードだろう。