自民党政策への疑問
民主党は政権をとると、2010年に戸別所得補償を実際に導入しました。さらに自民党が2012年に政権に復帰すると、戸別補償の廃止を決める一方で、コメを家畜のエサにしたときに甘い基準で補助金を出す飼料米助成を拡充しました。ある自民党の農林関係議員に問題点を指摘すると、「現在の飼料米助成に問題があることはわかっている。だが戸別補償で選挙に負けたので、幅広く出す補助金は見直しにくい」と話していました。
生源寺:欧州では政策が少しずつ変わってきていて、社会全体に還元されるようなものに補助金を投入するという方向にむかっている。環境問題などを重点に置き、経営政策的なものは後退した。
日本の政策で言えば、担い手を応援し、彼らが規模を拡大することでコストダウンが進めば、結果的に消費者にも利益が還元されることになる。一義的には農家を支えることになるかもしれないが、例えば米価をある程度低い水準に落とすことで、国民全体、消費者も利益を得る。
今、新規就農者の半分近くを60歳以上が占める。その中には、農家の息子の定年帰農や、趣味でやるような農業が含まれる。彼らの存在は、担い手の規模拡大の障害にはならない。そういう農業を認めるのにやぶさかではないし、むしろ羨ましいくらいだ。
ただし、納税者の負担で国費を投入するのであれば、社会に還元される道筋がきちんとしている必要がある。その点が非常に大事だ。
民主党の戸別所得補償と、自民党の飼料米助成をどう評価しますか。
生源寺:大きな枠組みとして、納税者つまり財政負担型の政策と、消費者負担型の政策の2つがある。農家に直接補助金を渡すのが納税者負担型で、農産物価格を支持するのが消費者負担型だ。
日本は価格支持から納税者負担への移行が進んでいた。そのほうが、担い手に支援を集中させやすいという面もある。価格支持をやめて消費者の負担を減らし、その結果苦労する担い手を支えようというのはわかりやすい政策だった。それが、生産調整に関する研究会の議論で目指した方向だった。
民主党の戸別補償は財政負担型だが、バラマキという側面があった。
これに対し、自民党の政策は財政資金を使って飼料米に誘導し、結果的に主食米からの転作を進めることで米価の下落を防いでいる。消費者負担型の価格支持政策に逆戻りした。全体として米価を上げることで、担い手も恩恵を受ける。だからいいだろうということなのかもしれないが、小規模な人たちもみなハッピー。担い手政策とは言い難い。
この政策はかなり疑問だ。補助金で飼料米に作付けを誘導していることと、価格支持で消費者が負担しているということのリンケージがふつうの人にはわかりにくい。担い手からすれば、財政負担型と消費者負担型で得る金額は同じということもあり得る。だが、価格を維持する消費者負担型の政策は、所得水準が低い人たちにネガティブな影響を与える。
納税者負担型であれば、利益の出ている企業から累進税率で負担してもらうことで、所得再分配の効果がある。消費者負担型はその逆。残念ながら、夕ご飯で100円玉1つを何とか節約したいと思う、エンゲル係数の高い人がこの国にはずいぶんいる。その人たちへの影響を考えると、消費者負担型はちょっとずつだが、積み重ねるとかなりの負担をもたらす。
もう一度、財政負担で担い手を重視するという格好に戻ってほしいと思っている。

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