なぜ匿名なのか

 そこでもう一度、資材を売る側の事情を考えると、もっと大きな問題が浮かびあがる。匿名の相手が、本当に資材を買いたいと思っている農家かどうかわからないのだ。ライバルの資材会社の提案内容を探るため、同業他社が農家を装って注文を出す可能性を排除できないのだ。アフターサービスも含めて商品価値が決まる資材の世界で、提案内容はノウハウそのものとなる。

 ネット社会によくある匿名性のリスクとも言えるが、それを生む背景は農家、というより農村の側にある。自分の名前を出して業者をてんびんにかけることをためらう農家が少なくないから、匿名の登録を認めざるをえなくなった。いつも資材を買っている農協や業者以外に調達先を探そうとしていることが知られたとき、農協や業者はどんな反応を示すか。そのことを心配する農家の心理的な負担を軽くするために認めたのが、匿名での登録だ。

 「農場を広域展開している法人は、地域や業者によって似たような資材の値段が違うことに気づいている」と先に書いた。アグミルがなくても、先進的な農業法人や農協は複数の業者を見比べて競わせ、資材を有利に調達するよう努力してきた。彼らはそうやって経営効率を高めようとしていることを、周囲に隠していない。そういう法人や農協がアグミルを活用することで、より条件のいい調達先を見つけるのはそう難しくないだろう。

 問題は、その手前にいる農家や農業法人だ。彼らがたんなる生産者から経営者へと歩を進めるうえで、アグミルはきっと役に立つ。そのためには、実名で商談を進めることを阻む「村の論理」を乗り越え、「顔の見える農家」になることが条件になる。そういう流れが加速して初めて、アグミルはサービスの真価を発揮する。

新たな農の生きる道とは
コメをやめる勇気

兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。

日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売