今年の8~9月の長雨と台風は、各地の田畑に深刻な爪痕を残した。スーパーの店頭では消費者が、我が目を疑う高値のレタスを目の当たりにした。今回のテーマは、この天候不順のなかで新規就農者がなにを学んだかだ。
紹介するのは、東京都瑞穂町で野菜をつくっている井上祐輔さんだ。就農5年目の31歳。高校を卒業して車の修理会社に就職したが、農業をやりたくて会社を辞め、茨城県の農業関係の学校に入り、有機農業を勉強した。

いったん仕事を辞める決断ができたのは、300万円ほど貯金があったからだ。本人は「あまりお金を使わなかったので」と話すが、貯蓄ができるというのは、個人事業である農業を始めるうえで重要な資質だ。農業学校で2年間学んだあと、さらに東京都立川市の農家で1年間研究し、26歳で就農した。
栽培しているのは、ネギやニンジン、ジャガイモ、ホウレンソウなど。「カレー食材や給食食材って言われているものです」というが、ようは変わり種の品種ではなく、ふつうの野菜を中心につくり、生計を立てているということだ。農場でのイベント用にヒマワリもつくっている。これが台風でやられた。
イベント前に台風直撃
例年なら秋口に、ヒマワリ畑で花を収穫したり、花から種をとったりするイベントを開く。井上さんは「築120年以上」という広い庭付きの古民家を借りて住んでおり、かまどで料理をつくってふるまうのもイベントの魅力の1つ。参加費用は約3000円だ。
ヒマワリのタネでつくった油は後日、参加者にプレゼントする。農薬も化学肥料も使わない有機栽培で育てたヒマワリの種を、溶剤を使わず、専門のNPOに頼んで「力任せに絞る」というシンプルな方法で油をつくるのが売りだ。油を追加で買う参加者もいるという。
今年もこのイベントを告知した矢先に、台風が畑を直撃し、ヒマワリをなぎ倒した。イベントを待つことはできなかった。泥につかると花が腐ってしまうからだ。2万本のヒマワリ畑の前に両親と立ちすくみ、「これを3人で終わらせられるのか」と途方に暮れたという。まだかろうじて立っている7000本を収穫し、ハウスで乾燥させた。

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