「疲れたときにはドリンク剤もあり」

 これに対し、三扇商事の姿勢はずっと柔軟。同社の生産担当者は「いつも体にいい野菜を食べている人も、疲れたときにはドリンク剤を飲むことがある。それと同じ発想」と話す。環境への配慮を尊重するあまり、それと矛盾する他者を否定するゼロサムの立場にはない。だから、化学肥料を水と一緒に自動で供給するゼロアグリを抵抗感なく受け入れることができた。

 この一歩を踏み出したことで、データを使った栽培管理の世界が開ける。先進的な有機農家の中には土壌分析をし、科学的な根拠に基づいて施肥設計している人も少なくないが、ゼロアグリなどの管理システムを導入すれば、日々の栽培データをデータで確かめることができるようになる。三扇商事の担当者は「自動制御で楽になると思っていたが、スマホの画面を頻繁に見るようになった」と話す。これは最初のステップ。1、2年かけて栽培の多くをシステムに任せていいことがわかれば、現場の負担が軽減する。

 ルートレックとオイシックスは今後、基準値を超えそうになると警告を発する今回のサービスの延長で、特別栽培の基準に合わせて化学肥料を計画的に自動で投入する仕組みを開発する。さらにその先の目標として、化学肥料ではなく、有機肥料を水に溶かしてチューブで供給するシステムの開発に着手する。有機肥料はそのままではセンサーで検出しにくいが、微生物が分解すればEC値を測ることができる。実現すれば、有機栽培のシステム利用の可能性が大きく広がる。

 今回はここまで。これまでスマート農業は、オランダ型の栽培ハウスや植物工場に象徴されるような、規格化を追求する農法を中心に発展してきた。有機農業は、反公害運動を源流の1つとして受け継がれてきており、病害虫や天候による被害をあえて受け入れることを是認するムードが一部にあった。ただ「農業は自然と向き合う産業」という言い方は間違いではないが、本質は人工的に植物生理を制御する産業。経験に基づいているようでいて、それを間接的に支えているのは科学の知見。言い換えれば、合理性だ。

 額と指にしわを刻んだ「匠の農家」のイメージからすると、スマート農業は異質なものに見えるかもしれない。だが、古来篤農は、そのときどきの最先端の技術を取り入れ、食料生産を支えてきたのだと思う。食料問題はずっと、社会の最上位の課題だったからだ。化学肥料や農薬が登場する前は、有機農業という名前はなくてもそれが食料生産を支えていた。社会と環境と経済の「持続可能性」が国際的に叫ばれるいま、AIに象徴される最先端の技術と有機農業が新たな形で結びつく。その未来に興味がつきない。

砂上の飽食ニッポン、「三人に一人が餓死」の明日
三つのキーワードから読み解く「異端の農業再興論」

これは「誰かの課題」ではない。
今、日本に生きる「私たちの課題」だ。

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