キーワードは「逆転の発想」。システムによるコントロールが可能にするのは、植物の生育を最適化するため、自動で十分に肥料を供給することだけではない。やり過ぎないように抑制したり、むしろ供給を減らしたりするために使うこともできる。ここで肝心なのは、多めに肥料を投与することが、植物の生育にとって特段マイナスの影響がなくても、肥料の投与を抑制することが農産物の商品価値を高める点にある。

基準値の8割に達したらスマホに警告

 ルートレックとオイシックスが共同で開発したのは、特別栽培をサポートするシステムだ。もったいぶって「オチ」を先送りすべき話でもないので、仕組みを解説すると、ゼロアグリは水と化学肥料の供給量を制御することがシステムのかなめ。それを応用すれば、特別栽培の基準に照らして化学肥料をやり過ぎないように農家に注意喚起する仕組みができる。まずは今回、基準値の8割に達したら、スマホに警告を発する仕組みにした。

 このシステムを最初に導入したのが、オイシックス・ラ・大地の取引先の三扇商事(福島市)だ。今夏から、キュウリの栽培ハウスで使い始めた。三扇商事はこれまで1月ごろに元肥となる有機肥料をハウスにまき、そのあと有機肥料を追加したり、化学肥料と有機肥料を50%ずつ混ぜた肥料を投入したりしていた。栽培上、もっとも大事なのは、最初の有機肥料による土作りだ。

水と肥料の供給を自動制御する「ゼロアグリ」(福島市)

 今回からはこうした肥料の投入方法を改めた。最初に有機肥料をやって土作りをするのはこれまで通りだが、そのあとは、化学肥料と有機肥料の混合肥料をやるのをやめ、ゼロアグリを使って化学肥料を投入する方法に改めた。ここまでは、ゼロアグリに有機肥料を投入する仕組みがないというシステム上の都合もある。しかしそのことで、栽培の実態が浮き彫りになった。

システムを導入する意味

 「有機肥料による土作りが大切」と書いたように、もともと三扇商事は化学肥料に頼って野菜を育てていたわけではない。ゼロアグリを導入したことでそのことが確認できた。くり返しになるが、特別栽培は化学肥料の投入を地域標準の半分以下に抑えるのが条件で、ゼロアグリが警告を発するのは投入量がその8割に達したとき。投入量をデータ管理するようになったことで、警戒ラインの8割よりずっと少ない量しか投入していないことがはっきりした。

 肥料の主成分である窒素が土中にどれだけあるかは、電気伝導率を示すEC値でわかる。ゼロアグリはそれをセンサーで測定し、必要量をその都度液肥で流す仕組みだが、三扇商事の場合、追加投入がほとんど要らないことが明確になった。有機肥料による事前の土作りがきちんとできているからだ。

 ここにシステムを導入する意義がある。警戒ラインの8割を大幅に下回っていることでわかるように、三扇商事はシステムを使わなくても特栽基準を上回ることはまずないので、ゼロアグリを導入しても、警告が出る可能性は低い。だから、化学肥料の抑制をシステムに頼る必要はないが、どれだけ抑制できているかはデータでわかる。土作りの成否の確認だ。

 三扇商事の佐藤泉社長は「これまでは水やりも感覚頼みだった」と強調する。「人間なんていいかげん」とも話すが、これは必ずしも自虐の言葉ではない。同社はオイシックス・ラ・大地の前身の1つで、有機農産物販売の草分け的存在「大地を守る会」が40数年前にできたときから取引のある生産者だ。農薬や肥料を減らして農産物を作るため、長い時間をかけて積み重ねてきた十分な経験がある。それでも、人の感覚にはブレがあることをわきまえているのだ。

 佐藤社長が「人間はいいかげん」という言葉で伝えたかったのは、「感覚頼み」の農法から脱却することの大切さだ。システムを取り入れたことで、ハウス内で何が起きているのかがデータで確かめることができるようになった。これまでも栽培記録はつけていた。ただそれは、担当者によるノートの手書き。今後はスマホの画面にデータだけでなく、グラフで表示されるので、これまでと違う意味で「感覚的」に把握しやすくなった。

これまでは手書きで栽培記録をつけていた(福島市)

 ここで特筆すべきなのは、三扇商事が農薬や化学肥料の使用を全否定する生産者ではない点にある。一部の有機農家や消費者には、農薬を悪と決めつける姿勢がなお残る。肥料の投入さえ否定する自然農法の生産者には、有機農業まで「肥料を使っている」という理由で批判する人もいる。日本に根強い、農産物の栽培に対する運動論的な考え方の名残かもしれない。