情報技術(IT)や人工知能(AI)などの先端技術を使う農業と有機栽培は、互いに交じり合うことのない別世界の農業――。有機物の循環や環境の保全を大切にする有機農業からすれば、栽培をシステムに任せることは以前は想定できなかったことかもしれない。だが先端技術を応用するスマート農業の流れは、化学肥料の使用を抑制する有機農業の世界にも及ぼうとしている。

 今回紹介するのは、ITベンチャーのルートレック・ネットワークス(川崎市)と、農産物宅配のオイシックス・ラ・大地の共同の取り組みだ。AIを使い、栽培ハウスで水と肥料の供給をコントロールするルートレックのサービス「ゼロアグリ」については、これまで連載で何度か取り上げてきた(7月27日「畑に「空室」のカラオケボックス、その正体は?」)。

どこまで栽培を任せるかがゼロアグリを使いこなすポイント(福島市)

 ゼロアグリの最大の特徴は、「水やり」を最適な状態でこなすことにある。手がかりにするのは、土の中の水分量や地温、日照量など。植物がどれだけ水分を吸収したのかをアルゴリズムを使って推計し、植物が必要とする量をチューブを使って自動で供給する。ゼロアグリを使っている農家に取材すると、水やりを自動化することで、栽培が安定する効果を強調していた。

 単純なように見えて、じつは人間でこなせる技術ではない。一言でいうと「少量多灌水」。「少」と「多」を含んでやや矛盾しているように響くこの言葉の意味は、「少しずつ、常に十分に水を供給し続ける」ことにある。人が四六時中ハウスにいても、同じことをやるのは不可能。しかも地面から栽培棚を浮かせた施設ではなく、水が土にしみ込んで植物の吸収量が把握しにくい「ハウス土耕」で制御を可能にした点にゼロアグリの強みがある。

 というわけで、ゼロアグリに関してはこれまで、「いかに適切に水をやるか」をテーマに取材してきた。一方で、あまり取り上げてこなかったのが肥料だ。水はやりすぎると根っこが腐ったりするので、いかに過不足なく供給するかをAIとの関連で取材してきたが、この仕組みは水と一緒に液肥の形で化学肥料も供給している。そのコントロールの意義を今回考えたい。