配車を担うべきは人かAIか

 これはあくまで理想型。プログラムの本格採用までの間には、アルゴリズムではじき出した内容について「人がやっていたときと勝手が違う」という戸惑いが出る可能性もある。だがくり返しになるが、そもそも手作業でやってもどれが正解かわかりにくかった。AIの活用の著しい進歩を考えれば、いずれプログラムを使うことに慣れるのはそう難しいことではないだろう。

 配車を担うべきは、人かAIか。それを考えるには、農産物販売の収益源がどこにあるかを確認する必要がある。農家の収益は詰まるところ、農繁物の販売価格と販売手数料を含めた経費の差でしかない。とすれば、農家が注力すべきは、品質のいい作物を効率的に安定して作ることであり、農協の役割は条件のいい売り先を見つけることにある。いくら変数が多くて複雑でも、配車を決めるのに職員が徹夜で作業していいはずがない。

 その意味で、三浦市農協とサイボウズの試みが軌道に乗り、もっと販売に人をさくことができるようになれば、農家の収益力の向上に間違いなく貢献する。そして、こういう取り組みが生まれる背景に、先端技術を農業に応用しようとする潮流があることを考えれば、「アグリテック」や「スマート農業」といった言葉を最近の農政が積極的に掲げ、政策的に後押ししようとしていることも、けして無駄なことではないと気づく。

 スマート農業は、これまでの農業のやり方を否定し、根底から覆すような政策課題ではない。生産者の中には「先端技術の導入」という流れに懐疑的な声もあるだろうが、今までのやり方の一部を改めるだけの取り組みでも、農業を次代につなぐきっかけになる可能性はある。

 冒頭の指摘に戻れば、既存の農業のやり方がはたからみて余りにも非効率に見える裏には、農業特有の難しい事情もある。だが、昨日と同じことを明日もやっていても、活路は開けない。「0.060秒」の表示が生む新鮮な驚きを、もっと増やすべきなのだ。何より、新しい仕組みを活用することに農家や農協のスタッフがわくわくすれば、それだけでも農業の明日に向けたささやかな活力になる。過小評価すべきではないだろう。

砂上の飽食ニッポン、「三人に一人が餓死」の明日
三つのキーワードから読み解く「異端の農業再興論」

これは「誰かの課題」ではない。
今、日本に生きる「私たちの課題」だ。

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