デザインの力と、制度改正で、さらに前進

デザイナーの江藤梢さんが作成したパンフレット(西東京市)
デザイナーの江藤梢さんが作成したパンフレット(西東京市)

 ここで江藤梢さんが手がけたデザインに触れておくべきだろう。経営のシンボルとなるロゴは、本来は丸いトマトをあえて六角形にデザインした。江藤さんはその理由を「松本さんの農場の特徴は、完熟のトマトを出荷していることです。なので、トマトのデザインは輝く宝石のようなものを、ちょっとカクカクさせて描きました」と説明する。

 この特徴的なデザインは、松本さんのトマトを他と差別化し、消費者にアピールするのに一役買った。松本さんはその意義を次のように話す。

 「今までの農家はどうやって売るかということをあまり考えてこなかったのではないでしょうか。いくら農家が『味で勝負』と言ったところで、見ただけでは味はわかりません。消費者は目についたものを買うし、食べてもらわないと味を知ってもらうことはできない。江藤さんのおかげで、自分のトマトを強くアピールすることができました」

 こうして第二の人生を本格農家として歩み始めた松本さんだが、政策面で朗報もある。松本さんがハウスを建てた生産緑地内の農地は、地主が自分で農業を続けない限り、固定資産税が宅地並みに跳ね上がる。農水省は農家の後継者不足が深刻な中、今の制度では農地を保全することは難しいと判断し、農地を人に貸しても税負担を抑えることができる制度に改める。

 制度改正で貸し出すことが可能になった農地を引き受け、次のハウスを建てるのが松本さんの今後の構想だ。「ここで基本をしっかり作り、第2、第3の圃場を作りたい」。都市で農業をやっている農家が集まって会社を作り、生産緑地内の農地を借りて経営を拡大する未来を思い描く。

 ハウス内に整然と育ったトマトの木の先を仰ぎ見ると、ビニールの天井の向こうに都営住宅の建物が透けて見える。紛れもない都市の住宅街の一隅にこぢんまりとした菜園ではなく、先進的な栽培ハウスが登場した。そのことを象徴する光景をながめながら、都市農業の新たな可能性を肌で感じた。

天井の向こうに都営住宅を仰ぎ見る。都市ならではの光景だ(西東京市)
天井の向こうに都営住宅を仰ぎ見る。都市ならではの光景だ(西東京市)
新たな農の生きる道とは 『コメをやめる勇気

兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。

日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売

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