とは言え、いくらオランダの技術を学び、高度な機械を導入しても、栽培がすぐにうまくいくわけではない。1年目は病気と虫にやられ、ほとんど出荷することができなかった。「一生懸命やったのに失敗した。教科書通りにそのままやってもうまくいかないんです」。農業の難しさを痛感した。

痛みを実感。少しずつ改良を

 松本さんはこのときのことを、「失敗の痛みを実感したことは大きい」とふり返る。どうすれば病害虫を防ぐことができるかを学ぶため、同じ農協に入っている農家に相談した。施設栽培をやっていない農家の意見でも、「こういう症状が出たらこの農薬をまけばいい」「この肥料が少ないからこういう症状が出る」などのアドバイスは参考になった。

 これは農業の核心部分と言えるだろう。温度や湿度、光量、二酸化炭素などの環境制御は自動だが、「何時に何度まで室温を上げるか」といった機械の設定は人が判断して決める。そういう試行錯誤の成果で、最近は年に20%のペースで収量が増えるようになった。松本さんは「少しずつ改良していくのが農業の基本です」と話す。

 販売も同じような経緯をたどった。最初のころは農協の直売所に40袋出荷しても、3~4袋しか売れなかった。売れ残った分は自分で引き取るしかない。それでは経営が成り立たないため、直売所に行って消費者に試食してもらい、味を知ってもらった。こうした努力が実を結び、最近は朝に40~50袋出荷すると、開店から1時間程度で売り切れるようになった。

 もちろん、味がよくなければいくら店頭でアピールしても固定客はつかない。その点で松本さんがこだわったのが糖度。糖度が高い中玉の品種を栽培し、機械で測って糖度が8度以上になるよう確かめながら出荷している。こうした努力で信頼を高めた結果、販路も広がった。農協の仲間の農家がイトーヨーカ堂と西友を紹介してくれたのだ。

上の部分の緑が濃いトマトほどおいしくなるという(西東京市)
上の部分の緑が濃いトマトほどおいしくなるという(西東京市)

 都市で農業をやっている強みもある。地方と違い、広大な農地で安く作ることは難しい。だがまじめに栽培に取り組み、鮮度のいい作物を届ける努力を重ねれば、売り先を確保することはできる。目の前に膨大な数の消費者がいるからだ。松本さんは「都市農業は出せば売れるんです」と話す。

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