今回のテーマは都市農業の未来。この連載で以前、農家を対象にロゴやパンフレットのデザインを手がけている江藤梢さんを紹介した(2017年6月9日「農業のデザインが安っぽくていいはずない!」)。取り上げるのは、江藤さんがデザインを手がけた生産者の1人、松本渉さんだ。

57歳で就農。2000万円を投資

 松本さんは現在、61歳。31年間勤めた会社を57歳でやめ、2014年に就農した。農場の名前は「ファーム柳沢」。栽培している品目はトマトだ。

 西武新宿線の柳沢駅(西東京市)を出て住宅街を3分ほど歩くと、松本さんの自宅に着いた。玄関を開けて出てきた松本さんに「こちらです」と促され、家の裏側に向かった。このときは庭先の小さなビニールハウスを想像していたが、実際はまったく違った。がっつり真正面から農業をやっていた。

退職金で本格的なハウスを建てた松本渉さん(西東京市)

 鉄骨の柱に支えられた施設は、幅が12メートルで長さが35メートル。大型台風並みの風速50メートルの風にあおられても傾かない頑丈な造りだ。栽培方法は、地面から浮かせた栽培箱に養液を流す隔離ベッド方式。施設の中を走る6列の隔離ベッドで約1000本のトマトの木が育つ。

 省力化も追求している。温度や湿度、二酸化炭素(CO2)の濃度をセンサーで測り、室内の環境を制御する。遮光カーテンの上げ下げや天井の開閉、ヒートポンプを使った空調はすべて自動。二酸化炭素の濃度が下がれば、ガスを燃やして炭酸ガスを供給する。これも自動だ。

室内環境を制御するパネル。条件設定がノウハウ(西東京市)
ガスを燃やして二酸化炭素を供給する装置(西東京市)

 施設園芸で世界の先端を行くオランダの施設と比べると規模は小さいが、運営の仕組みはオランダの方法を取り入れた。松本さんは「勘と経験に頼る栽培は、新規就農者にはできません。科学技術を使わないとうまくいかないと思いました」と話す。

 投資額は約2000万円。退職金をはたいて本格的な施設を造った。「しっかり投資をしないと利益が出ないし、継続もできない」と思ったからだ。