水田の貸借で地主と直接交渉する山崎氏でさえ、新しく管理することになった田んぼの位置を迷うことがある。実際に作業するスタッフたちが年々膨れあがる田んぼを正確に把握するのは、もっと至難のわざだ。

 把握すべきなのは水田の位置だけではない。田んぼごとに土壌の質を理解し、肥料や農薬をどれだけまくべきかを考え、代かきから田植え、水の管理、収穫まで滞りなく進むよう作業計画を立てる。収穫を終えて収量を確認し、翌年の改善計画を立てるころには、新たな田んぼの話が舞い込む。

 しかも、集まってくる田んぼは必ずしも条件のいいものばかりではない。周辺の田んぼが荒廃するのを防ぐため、ときに収益性に目をつぶっても水田を引き受けざるをえないのは、地域の担い手に共通の事情だ。

 山崎氏は「毎年10ヘクタールの田んぼが集まってくる」と話したとき、ふと「困ったもんだ」とつけ加えた。規模拡大に弾みがついていることを「困った」と表現するのを不思議に思うかもしれないが、この言葉には回りの農家が続々と引退していくことへの複雑な思いと、地域の田んぼを守ることを期待されているという責務への自覚が込められているのだろう。

システムなしには成り立たない

 そこで前段の問いに戻る。農家の側にシステムを使いこなすスキルが不足していることが、農作業のデータ管理のハードルになっていると書いた。だが、いまや何らかの形でシステムを活用することができなければ、地域の担い手となることが難しいような時代がやってきた。広大な面積を管理することを求められる稲作の場合、その必要性は日増しに高まっている。

 もちろん、クボタのKSASはスマホに似た専用端末を使い、現場で画面にタッチすればデータを入力できるようにするなど、システムの使い勝手をよくする工夫をしている。スマホが急速に普及したことで、情報端末が農家にとって身近なものになったという側面もある。だが、最も大きいのは、システムなしには経営が成り立たないような農業の構造変化だ。

KSASの専用端末。個人のスマホを使うのと違い、汚れを心配しなくていい(千葉県柏市)