これからの農業経営について語るとき、「データ化」が重要なキーワードの1つになりつつある。気温や湿度などの気象条件や、播種や収穫などの作業工程を数値で管理するシステムをメーカーが次々に開発し、現場への導入を競っている。今回紹介するのはそうした試みの1つ、クボタが提供している「KSAS」というシステムだ。

 KSASの特徴は、農作業の全体を包み込むようにカバーしている点にある。だれがいつどの圃場でどんな作業をするのか、実際にどんな作業をしたのかといった情報をクラウドで管理し、作業計画と作業日誌を電子化する。

 蓄積する情報は、作業者の名前から圃場の住所や面積、肥料や農薬の種類、作業時間、収量、食味など多岐にわたる。蓄積されたデータは翌年の栽培計画を作る際の参考になるだけでなく、コスト構造や生産性を分析して無駄を洗い出し、経営指標を作成するのに役立てることができる。

「あとは頼む」で、年10ヘクタールずつ増加

 「勘と経験」に頼る今までの農業のやり方を変えるため、ノウハウを「見える化」すべきだという声は以前からあった。だが、農家の側にシステムを使いこなすだけのスキルがないことも多く、なかなか普及しなかった。KSASはそうしたハードルを突破し、農業現場を変えることはできるだろうか。それを探るため、2年半前ほど前にKSASを導入した山崎フロンティア農場(千葉県柏市)を訪ねた。

 「田んぼを貸してくれる地主さんから場所を聞いても、帰ってくるときにはどこだかわからなくなっていることがある」

 山崎フロンティア農場の山崎直之社長はこう話す。これは、いま農業現場が直面している問題を象徴する言葉だ。高齢農家の引退が加速し、農地が集まってくるペースが年々速まっているため、経営者が頭の中だけで農地を把握するのが難しくなっているのだ。

 山崎フロンティア農場の水田面積は現在、約90ヘクタール。田んぼの数に直すと約300枚になる。以前は零細農家から「今年で最後だ。あとは頼む」などと声をかけられ、一軒で1ヘクタール未満の田んぼが集まる程度だった。それがここ数年は2~3ヘクタールの農家から頼まれることも珍しくなくなった。合わせると、増加面積は年に約10ヘクタールに達する。

KSASで食味の向上を目指す山崎フロンティア農場の山崎直之氏(千葉県柏市)
KSASで食味の向上を目指す山崎フロンティア農場の山崎直之氏(千葉県柏市)

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