さらに先を行くカゴメの構想

 しかも、カゴメの構想は北杜市の施設のさらに先を行く。北杜市に先端施設を建設したのは、国内有数の日照量を誇り、トマトの生育に有利だったからだ。だが、ここまでの施設の進化で課題もはっきりしてきた。施設内の空気を理想に保つためのエネルギーコストが無視できなくなってきたのだ。

 今後の課題は、地熱や工場の廃熱などを活用することで、エネルギーコストを抑えることのできる立地を確保することだ。それを優先すると、北杜市と比べて日照量が少ない場所に建てることが必要になるかもしれない。不足する日照は、LEDなどの人工光で補完する。技術革新はまだまだ続く。

 ここで冒頭に戻ろう。農業の取材をしていると、カゴメが日本に導入したセミクローズドの施設や植物工場など、これまでの常識を覆す収量を達成する技術について、あまりにも無関心だと思うことが少なくない。とくに植物工場は失敗例が多いため、自分たちを脅かす可能性のある技術だと感じている農家はほとんどいないと思う。そして、昨日と同じ営農が明日も続く。

 もちろん、カゴメが追求している技術が唯一の道であるわけではない。例えば収量を最大の目標にすると、糖度の高いトマトを作るのは難しくなる。高糖度トマトを作るには、水の供給を制限し、トマトにストレスを与える必要があるからだ。大切なのは、そういう技術の両方を視野にいれたうえで、どんな手法で収量や品質を差別化するかだ。「知る」ことなしに、次に打つ手は決まらない。

 今回はカゴメが20年前に掲げた3つの目標のうち、「日本では考えられないような収量」をどう実現しつつあるかを解説した。残る2つの目標、流通改革とナショナルブランドの確立については、取材を重ねたうえで改めてお伝えしたいと思う。

砂上の飽食ニッポン、「三人に一人が餓死」の明日
三つのキーワードから読み解く「異端の農業再興論」

これは「誰かの課題」ではない。
今、日本に生きる「私たちの課題」だ。

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