画期的だった技術の誕生

 次にコリドーから施設の内側に入る。育てられている8万本のトマトの木の足元を、太さが86センチメートルで長さ124メートルの、86本のビニールパイプが走る。コリドーで調整された空気がこのビニールパイプから施設内に供給される。ここがノウハウの核心部分。パイプはビニールが二重になっていて、内と外のパイプで違う箇所に空けた穴から調整した空気を供給する。そうすることで、空気にムラが出るのを防ぐ。

 農業のイノベーションの本質とも言うべき部分だ。研究機関の施設や小規模の農場なら、環境のコントロールはそう難しくないだろう。だが、「1平方メートル当たり70~75キログラム」の高収量を広大な農場で実現しようと思うと、施設内の環境を一様に保つために別次元の技術が必要になる。コリドーとビニールパイプの組み合わせが、それを可能にした。

 ここまでが、常識を超えた高収量を実現するため、カゴメが導入した技術の紹介。もともとこの技術を発案したのは米国の農家だ。砂漠に面した施設に乾燥した空気が入り込むことに悩まされていたのがきっかけ。施設内の空気を安定させるため、施設園芸で世界の先端を行くオランダの企業と組み、室内環境を外気と遮断する技術を開発した。カゴメはこれを日本で応用した。

 この技術の誕生は画期的だった。それ以前、環境制御型の農場は、太陽光と外気を使うオランダ型の施設と、閉じた建物の中でLED(発光ダイオード)照明などで育てる植物工場の2つに分かれていた。これに対し、新技術の通称は「セミクローズド」。カゴメの原田聰・栽培技術グループ部長によると、この技術の登場で「今までのオランダ型の技術はトラディショナルと呼ばれるようになった」という。

 日本で初めてとなるカゴメのセミクローズドの施設は、たしかに日本で有数の収量を実現しようとしている。だが、ここで生まれつつある新たな技術は多収にとどまらない。さらなる一歩の1つが、収穫作業の自動化だ。人手不足による作業効率の低下と収益性の悪化が、広く日本の産業界を覆っている。過疎化に悩む地方はその影響が著しく、農業はとくに深刻。そこでロボットの活用に期待が高まっている。

日本初のセミクローズドの施設の外観(山梨県北杜市)
日本初のセミクローズドの施設の外観(山梨県北杜市)

 それこそ日本の得意分野と言いたいところだが、ことはそう単純ではない。ロボットで収穫しようとしても、トマトが葉の影に隠れていたり、茎の反対側にあったりするので、自動収穫は難しい。ここに、日本で普及しているオランダ型の施設の弱点が潜む。本来は日の光に合わせて茎の片側にほぼそろって実るはずのトマトが、茎の反対側にまで散らばって実ってしまうのだ。

 原因は、ツタのように上に細く伸び続けるトマトの木を、倒れないように支える伝統的な手法にある。オランダ型はトマトの木が伸びるのに合わせ、「ひも」を巻き付けて上からつるす。既存の施設園芸はこの作業に熟達することが効率を左右していた。だが、このやり方だと、巻き付けた「ひも」のせいでトマトの木がねじれ、実る方向がばらついてしまうのだ。

トマトの木をねじらない栽培方法(山梨県北杜市)
トマトの木をねじらない栽培方法(山梨県北杜市)

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