企業の農業ビジネスも、ずいぶん洗練されてきたように思う。自ら農場を開き、「自分で作ったほうがうまくいく」といったノリの上から目線の参入は少なくなり、自社の得意分野と農業との接点をさぐる試みが主流になってきた。今回取り上げるNTTドコモも、そうしたケースの1つだ。

「ところで、何を売ってるの?」

 ドコモはICT(情報通信技術)を活用し、農業を活性化するためのチームを2014年に立ち上げた。背景にあったのが、環太平洋経済連携協定(TPP)だ。トランプ米大統領の登場でTPPは今や暗礁に乗り上げたが、当時は農産物関税を広範に撤廃することが視野に入っていた。

 対する日本の農業は、農家の高齢化でじり貧状態。平均年齢は70歳に迫っており、年金の受給対象の年齢層がメーンの集団になっている。産業の各分野に変容を迫っているICT化も極端に遅れている。だからこそ、ドコモが得意とする情報技術を活用すれば、農業の再生に役立てると考えた。

 「日本の農業をモバイルで元気にする」がプロジェクトのキャッチフレーズ。2014年にチームを立ち上げたときのスタッフは3人と、ごく少ない人数でスタートしたが、今は約200人の大所帯に成長した。そのうち約90人は、ドコモが「アグリガール」と名づけた女性職員のチームだ。

 ICTと言うときれいに聞こえるかもしれないが、やっているのは直球の営業活動だ。農家や農協に行けば、「農業やったことあるのか」と聞かれることもある。肝心なのは経験の有無ではない。一緒に田んぼに入って作業を手伝うことで、農家は次の問いを発する。

「ところで、何を売ってるの?」。

農作業を手伝うドコモのアグリガール(写真提供:NTTドコモ)
農作業を手伝うドコモのアグリガール(写真提供:NTTドコモ)

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