メリットはそれだけではない。店舗で芯を切り、肉巻き用のメニューとして出す葉っぱを選ぶ際、小さくて肉を巻けない葉っぱも数枚残る。これをサラダの素材として使うことにした。株ごと仕入れているから可能な有効活用だ。

 JA側も、牛繁という安定的な売り先がみつかったことで、気づいた点があった。サンチュの栽培期間は標準で35日だが、一部は成育が不十分で「肉に巻けない」という反応が店から出た。調べると、蛍光灯の照度が落ちた棚で育てたものだった。これは、栽培期間を延ばすことで対応することにした。

 この話にはまだ先がある。いくら栽培日数を増やしても、葉っぱの長さが短かったり、幅が狭かったりするものが一定の割合で出る。JAはこれまで、こういうものは直売所で売ったり、一部は廃棄したりしていたが、今後はサラダ用として牛繁に回すことにした。今日(14日)からメニューに入る予定。スポットの仕入れではなく、コンスタントに使う。最近のレタス不足を受け、植物工場の価値が一段と高まってきたのだ。

 現在、牛繁が首都圏を中心に運営している約130店のサンチュは100%すべて、JA東西しらかわから仕入れたものだ。牛繁の店舗数が増えるのに伴い、取扱量も拡大しつつある。

新たに仕入れ始めたサラダ用サンチュ。以前は現地で廃棄されるものもあった。
新たに仕入れ始めたサラダ用サンチュ。以前は現地で廃棄されるものもあった。

安定と鮮度の意義がまさる

 以上に関し、ひとつ疑問が浮かぶかもしれない。芯を切る作業を店でやることで仕入れ値を抑えられるなら、植物工場よりもコストの低いふつうの畑でつくったサンチュで同じことをすればいいのではないか、という点だ。これまでの慣行を破り、そういう要望に産地が応じてくれればの話だが、たとえそれが可能になっても植物工場から買い付ける意義がまさる。生産の安定と鮮度だ。

 植物工場の価値について、需要者の側から考えた今回の取材結果はここまで。この問題をもっと深掘りするため、あらためてJA東西しらかわにも取材したいと思っている。そして、植物工場のなかには、露地ものの野菜とコストで対抗し、スーパーを販路に経営を拡大しているところもある。いずれそうした事例も紹介することになるだろう。

 最後に一言。一連の取材を通し、思い出したシーンがある。数年前、ある勉強会で植物工場の意義について質問が出たとき、有名な農業経済学者が「あんなものはダメだ」と切って捨てたのだ。そのときは、植物工場の取材経験がなかったので、「そういうものなのか」と感じただけだった。

 いまはそれを疑問に思う。筆者は、「植物工場が農業を救う」といった短絡的な報道には否定的だが、かといって「ダメだ」と断じるつもりもない。新しい技術は、それを使いこなすための習熟と、マーケティングの3者がかみあって初めて真価を発揮するものだろう。植物工場の可能性を、誇大な評価は戒めつつ、引き続き探っていきたい。

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