かつてのように、大きな工場を建設できるなら地方も潤うだろうが、それが可能な時代ではないし、旅行会社が貢献できる分野でもない。だが、農業に目を向ければ可能性が開ける。旅行には様々な形態があるが、本質は「人の移動」にある。そこで、地方の自然と食と生産者と、都市の生活者とを結ぶ。そのことを通し、地方を悩ます耕作放棄の解消に貢献する。

 ただし、ここで確認が必要なのは、たんに農場イベントに利用者を連れて行くことで、旅行ビジネスを盛り上げようとは思っていない点だ。そういう単線のビジネスではなく、まずは「人の流れをつくる」ことを目指す。手がかりは、農村が秘める旅行のコンテンツとしての魅力だ。

 そこでゆっくりと人の流れが立ち上がってくれば、「最終的には何か見返りがあるかもしれない」というのがJTBの発想だ。「RE FARM」のサービスはその出発点であり、人の流れが道の駅や地方のホテルなど農場以外に波及すれば、地方経済の体温を温めることができる。それが巡り巡って、JTBのビジネスにプラスの形ではね返ってくるかもしれない。

 当初、JTBの営業担当者の間には「なぜ農地のレンタルを旅行会社がやるのか」という疑問の声もあった。だが、議論を重ねるうち、様々な農地の利用の仕方を企業に提案することが、「RE FARM」の枠を超えて新たな旅行ビジネスを考える契機になることに気づいたという。

地方の魅力を再発見するための一歩に

 以前この連載で、JTBの高橋広行社長の次のような言葉を紹介した(7月20日「外国人が買う1万円のイチゴ、その先を考えよ」)。

「人の流れ、モノの流れを作る」と話すJTBの高橋広行社長

 「この4月にグループを挙げて経営改革に踏み切った。(中略)そこで、事業ドメインも『交流創造事業』に改めた。人の流れ、モノの流れを自ら作り出し、社会の課題の解決に貢献する。5年後に『JTBって何の会社ですか』と問われれば、おそらくたんなる旅行会社ではなくなっている」

 頭で考えてすぐ解決策が見つかるなら簡単だが、誰でも思いつくようなところに商機はない。「RE FARM」はそれ自体がただちに「富の源泉」となるような事業ではなく、新たなビジネスを考えるためのプラットフォームなのだ。再生した放棄地に都市の人々を呼び込むという地道な作業は悠長に見えて、地方の魅力を再発見するための確実な一歩になるだろう。

 局面を一気に変えるような解決策が見つからないのは、旅行も農業も共通。それが日本の地方経済が抱える難しさであり、そこにこそチャンスが潜む。マーケティングの教科書を読むような単純明快さとは別物だが、「人の流れ、モノの流れを自ら作り出す」というその先に期待したい。

砂上の飽食ニッポン、「三人に一人が餓死」の明日
三つのキーワードから読み解く「異端の農業再興論」

これは「誰かの課題」ではない。
今、日本に生きる「私たちの課題」だ。

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2018年9月25日 日経BP社刊
吉田忠則(著) 定価:本体1800円+税