日本は、年間の食品ロスが数百万トンに達する「飽食の国」だ。農産物価格は常に強い下方圧力にさらされており、付加価値を高めて利幅を大きくするか、効率性を高めて利益を確保しなければ、農業の持続可能性に黄信号がともる。そのどちらとも違う形で農地の保全を可能にする第3の道が、市民農園をはじめとする農地のサービス業的な利用だ。

 そもそも農産物を売ってももうかりにくいから、耕作が放棄される。だが作物を売るのではなく、農地を「イベントの場」にすれば、新たな展開が見えてくる。市民農園に集う都市の住民は農家とは逆で、「お金を払って農作業を楽しんでいる」。そこでできた野菜で食費を浮かしたところでほとんどの場合、農園の利用料を差し引いておつりが出るわけではない。

まずは「人の流れをつくる」こと

 農家の中には「あんなのは農業ではない」と否定する人もいるが、ネガティブに考える必要はひとつもない。そこで行われているのは、見た目は生産だが、実際は市民が農地を使って楽しむ「消費」だからだ。農産物を作ってもうけることではなく、消費の場にすることで農地を守る。

 もし、そこに子どもが参加すれば、農作業の楽しさや大変さ、新鮮な農産物のおいしさを知り、未来の農業のサポーターになってくれるだろう。そのうち何人かは人生の節目で農業の魅力を思い出し、仕事として農業を選んでくれるかもしれない。JTBの8月6日のイベントのように大勢の子どもたちが参加することは、農業の将来にとって大きな意義がある。

 日本の農業を覆う危機の深刻さと比べれば、農地のサービス業的利用はささいな取り組みに見えるかもしれない。だが、事態をまるごと一気に解決できる手段があれば簡単。そうでないから、農業はずっと苦境の中にある。その意味で、JTBの取り組みは農業にとって十分価値があるが、ここで素朴な疑問が浮かぶ。そもそもJTBはなぜ農地の再生を新規ビジネスにしたのか。その点を担当者に聞くと、じつにシンプルな答えが返ってきた。

 「そこで大きくもうけようとは思っていません」

 「単なるCSRなのか」という声が聞こえてきそうだが、少し丁寧にJTBの考えをたどってみよう。最近はインバウンドばかりが注目を集めているが、旅行会社にとっては日本人の国内旅行も重要なマーケット。ところがその市場が、人口減少で大きな打撃を受けている。例えば、小中高校の修学旅行は貴重なビジネスチャンス。だが各地で廃校が進み、その需要が減っている。

 旅行ビジネスの難しさは、社会が安定していて、それなりに豊かでないと盛り上がらない点にある。よほど特殊なポリシーのある家庭でない限り、家電製品は一通りそろえるだろう。これに対し、給料が減ったり伸び悩んだりしていると、旅行なら「今年は我慢しよう」という選択肢がすぐ頭に浮かぶ。だから地方経済が疲弊すると、社員旅行や家族旅行にダイレクトに響く。