これは何も、「田んぼの美観を損ねるな」というレベルの話ではない。広大な農場で高収量をあげるための極意とも言うべきものだ。この話を聞きながら、農業の世界に伝わる古い格言を思い出した。

 「上農は草を見ずして草をとり、中農は草を見て草をとり、下農は草を見て草をとらず」

 中国明代の農業書「農説」に原典を求めることができるこの格言には、様々な解釈がある。現代の観点から見て筆者が感じ取るべきだと思うのは、様々な環境変化に対応しながら農場をベストの状態に保ってトラブルを防ぎ、収穫を成功させるための心得のようなものだ。福原さんはそれを、田んぼの隅々にまで神経を配る「観察力」という言葉で表現した。

 今回の取材は、収穫したコメを運ぶトラックに同乗しながら始まり、農作業を終えた後は事務所でお茶を飲みながら話を聞いた。すっかり日が落ちたのに気づき、「お疲れのところ、ありがとうございました」と締めくくって、2人で事務所を出ると、父親の昭一さんにばったり出くわした。

 田んぼで取材しているときは気づかなかったが、この日も社員たちとコンバインに乗り、稲を収穫していたのだという。笑みをたたえながらも、白髪で髭をたくわえた迫力ある風貌。作業着越しでもわかるがっしりした体格で、背筋がびしっと伸び、「今日もいい汗をかいた」という様子で目の前に立った昭一さんから「これは、どうも」と声をかけられた。いい意味で、ちょっと気押された感じがした。

 悠平さんに最寄りの駅まで車で送ってもらいながら、昭一さんのことを念頭に「まだ6、7年はお元気そうですね」と言うと、笑いながら「いやあ、最低10年はばりばりですよ。ありがたいことです」と話していた。

このコンバインのどれかに創業者の昭一さんが乗っていたのだろうか(滋賀県彦根市)
このコンバインのどれかに創業者の昭一さんが乗っていたのだろうか(滋賀県彦根市)

砂上の飽食ニッポン、「三人に一人が餓死」の明日
三つのキーワードから読み解く「異端の農業再興論」

これは「誰かの課題」ではない。
今、日本に生きる「私たちの課題」だ。

【小泉進次郎】「負けて勝つ」農政改革の真相
【植物工場3.0】「赤字六割の悪夢」越え、大躍進へ
【異企業参入】「お試し」の苦い教訓と成功の要件

2018年9月25日 日経BP社刊
吉田忠則(著) 定価:本体1800円+税