一方で、トップと社員の新しい関係を築くため、仕組みを改めた点もある。1つは、「水見(みずみ)手当て」を設けたことだ。これまで、田んぼの畦のバルブをひねって水を入れる作業は、社員が出退勤時に無償でやっていた。去年から担当する面積に応じ、この仕事を給料に反映させることにした。

 

 今まであいまいな面があった残業手当も、きちんと出すようにした。会社が抑制していたわけではなく、社員たちがなんとなく遠慮していたのだ。法人化した農家が、組織を整える過程で共通して直面する課題だろう。「残業代をけちっても会社に何のプラスにもなりません。いい意味でうちの残業代は増えました」。有給休暇も取るよう社員に促すようにした。

 コミュニケーションの一環として、社員に説いているのは「うちで働く目的を明確にして欲しい」ということだ。それは家族のためでも、週末の趣味のためであってもいい。「だって給料のことだけ考えるなら、もっと割のいい仕事があります。うちで仕事して、どんなことを実現したいのか。ぼく自身も含めて、それぞれが考えるべきことだと思います」。では肝心な一点、福原さんは実家で「軽いノリ」で始めた稲作のことをどう思っているのか。

 「そりゃもう好きですよ。休みも少ないし、好きでなければ社長になろうなんて思いません。社長にならずに社員のままでも、給料もらって実家に住まわせてもらい、とりあえず生活することはできましたから」

 では今後どんな経営を目指すのか。「社長になったとき社員に言ったのは、農産物の販売で5億円を目指そうということです。実現できれば、西日本でトップクラスの稲作経営になれます」。フクハラファームの売り上げは現在4億円弱で、コメと麦、キャベツなどの野菜の複合経営だ。そして5億円の目標を達成するために力を入れるのが、収益性の高い野菜の生産だ。

 念のために触れておくと、ここで福原さんが言ったのは、稲作から野菜作へのシフトではない。キャベツを作っているのは、稲作の「裏」の二毛作。田んぼを年間でフルに使い、生産効率を高めて売り上げを増やすのが目的だ。日本の稲作が総兼業化する中で失った農業の理想像だろう。

 ここには、福原さんの父親に対するリスペクトが込められている。後継者の中には真新しさを求め、あえて父親の路線とは距離を置く人もいる。だが福原さんは「先代の路線を踏襲し、生産に注力します。自分たちの得意分野で勝負したいんです」。だから、加工などの6次産業化で大きくなろうとは思わない。

 そんな福原さんを、父親が戒める言葉もいたってシンプルだ。「地域を裏切るようなことだけはするな」。地主から借りている田んぼに雑草を生やすなという意味だ。この点については、くり返し厳しく諭されたという。「先代から『雑草におまえが気づいてないようではよくない。それに気づき、指示するのがおまえの仕事だ』とよく言われます」。