風向きが変わったのは、社長に就く約3年前だ。父親から「自分もそろそろ引退を考える年齢が近づいてきたが、後継者のメドが立っていない。おまえはどうしたい」と告げられた。興味深いのは、このときも父親は「継いで欲しい」という直接的な表現を避けたことだ。対する福原さんのほうも、「そういう気持ちがないわけじゃない」という曖昧な答え方をした。

 「たぶん先代(=父親で現会長の昭一さん)は、ぼくの覚悟がいかほどのものか見極めたかったんじゃないでしょうか」。福原さんはそのときのことをこうふり返る。そして社長に就く1年前、父親から「そろそろ社長を代わろうと思う」と言われ、「自分も腹をくくることにした」と返事をした。こうして、全国的にも知名度の高いフクハラファームは、創業者から2代目へのバトンタッチが決まった。

 だがもっと正確に言えば、バトンタッチが始まったと言うべきなのだろう。60代前半の昭一さんはとても「そろそろ引退」という言葉が似合う人ではない。息子の判断が間違っていると思うと、迷わず正す。福原さんは「後から考えれば、先代の指示が正しい。まだまだ勉強不足です」というが、社長になったことの責任は正面から引き受けようと努めている。

 「先代の指示で作業するときに必要な知識と、自分で判断して指示するために必要な知識はまったく別物です。最近も『もう1回肥料を入れておけば、もっと収量が上がったんじゃないか』とあとから思いました。そこに気づいて先代に相談すれば、『もう1回やったほうがいい』と言ってくれたかもしれません。そんなふうに思うことがしょっちゅうあります」

 福原さんは「自分の力量不足です。圧倒的に生産の知識が足りないことを、痛感しています」と話すが、そう思うようになったのは、トップの目線で考えるようになったからだ。だから「本当の意味で世代交代するためには、もっとちゃんとしなければならない」とも強調する。

 言うまでもなく、キャッチアップが必要なのは生産技術だけではない。もっと大事なのは、従業員との関係をどう築くかだ。もちろんそれは、2ヘクタールの零細経営を、180ヘクタールのメガファームにまで成長させた父親に可能なやり方とはまったく違うものだ。号令一下、自らの経験と知識をもとにスタッフを機動的に動かすような手法は通用しない。

 「ワンマンは創業者だけに許される特権です。先代はやるべきことを自分の背中で見せてきました。ぼくはしっかり社員とコミュニケーションを取り、みんなの背中を押してあげるようなトップになりたいと思ってます」

 社員の中には、農作業のキャリアが自分より長い人も少なからずいる。「どうすればみんなが気持ちよく仕事できるか。変に下手に出る必要はないと思いますが、上からの言い方はしないように気をつけてます」。この辺りの「間合い」をどうつかむかは大きな課題だろう。

大規模農場で収穫した新米の調整が進む(滋賀県彦根市)
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