豊かに実ったブドウ園(新潟県糸魚川市)

 若い社員たちの声を受け、オーナーが決断した。「糸魚川で一生暮らしたいなら、糸魚川で問題となっていることを解決しないといけない。もし、社員が農業に真剣に取り組むなら、会社として応援する」。このときのオーナーの意志は、その後もまったく揺らいでいない。

うちは「社内兼業」

 農業を始めてから10年以上が過ぎ、谷村建設の社員たちにとって、自社が農業をやっているのは自然なこととなった。梅沢氏は「お客さんから、おたくのトマトジュースおいしいねって言われれば、社員も喜ぶ」と話す。

 そこで、梅沢氏に改めて撤退問題を聞くと、次のように答えた。

 「もし、農業をやめるとしたら、農業ではなく、本業の赤字が続いて立ち直れないような場合です」

 利益が出ていなくても、撤退しないというのは、経済合理性だけを考えたら、不自然なことに見えるかもしれない。だが、世の中は経済合理性だけで動いているわけでもないし、実際、利益が出なかったり、赤字だったりしても長年続いてきた経済活動がある。兼業農家だ。梅沢氏が重ねて答えた。

 「うちのことは、社内兼業だと思ってもらえば、いいわけです」

 これが今回の結論。兼業農家は農業の技術や経営のイノベーションにはあまり役立たなかったかもしれないが、食料供給と社会の安定には間違いなく貢献した。その兼業農家が高齢で大量リタイアの時代に入ったことが、足元で起きている農業構造の変化の背景にあるが、衰退しつつあるシステムにもかつては一定の価値があった。

 谷村建設がやっている農業は、ふつうの農家が時間をかけてふつうにできるようになることを目指しているのであって、企業の農業参入でイメージするような、既存の農業とは別の革新的な何かを実現しようとしているわけではない。それでも、名前の知れた大企業が次々に農業から撤退したり、縮小したりする中で、「絶対撤退しない」と覚悟を決め、げんに継続していることの意義は過小評価すべきではないだろう。

新たな農の生きる道とは
コメをやめる勇気

兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。

日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売