農業に参入したほかの企業と比べ、谷村建設がとくに特殊なのが人事。ふつうは利益が出ないと、担当者のせいだと言わんばかりにころころ人を替え、それでも黒字化できないと最後は撤退する。

担当者は替えず、後継者も

 これに対し、谷村建設はコメ、トマト、ブドウの担当者の3人を一貫して替えていないのだ。同社が担当者に望むのは、地域と協調し、まじめにいい作物を作ることだ。

 例えば、コメ担当の渡辺敏哉氏は、39歳のとき地元のベテラン農家の斉藤義昭氏のもとで稲作を学び始め、今年は52歳。もう建設会社に就職したというより、農家になったと言ったほうがいいくらいだ。

 地道に続けてきた成果で、作物はどれも評判がいいという。それでも、渡辺氏によると、「斉藤さんは暑くても寒くても、雨が多くても少なくても、収量に波がない。僕らが気づかないことに気づいている」。ベテラン農家の背中を追いかける農家のセリフそのものだ。

 しかも、話には続きがある。谷村建設は渡辺氏の下に、もう1人稲作の担当者をつけた。渡辺氏の後継者に育てるためだ。冒頭に掲げた「撤退はいっさい考えていない」という言葉に偽りはないと言っていいだろう。

 なぜ、こうまでして農業を続けるのか。谷村建設は今から10年以上前、当時は30代後半だった梅沢敏幸氏を中心に、糸魚川市にとって将来何が必要かを若手の社員で話し合った。「一生糸魚川で暮らしたい」を合言葉に議論するうち、地域の問題として浮かびあがってきたのが農業だ。

 社員の中には実家が農家だったり、妻が農家の娘だったりする人が少なくない。週末に農作業を手伝う社員もたくさんいる。彼らに共通の悩みが、農業の衰退だった。

トマトは糖度が高く、子どもに人気(新潟県糸魚川市)