日本の稲作の未来を考えるうえで、注目すべき存在であるにもかかわらず、じっくり取材する機会がなかった農場がある。琵琶湖の東側、滋賀県彦根市で大規模稲作を営むフクハラファームだ。
先週まで2回にわたり、茨城県龍ケ崎市で140ヘクタールの水田を運営する横田農場を取り上げた。そこで浮かびあがったのは、スタッフが仕事を分担し合いながら、自分の判断で作業する自律分散型の経営だった。農場主の横田修一さんは、ピラミッド型の対極にある営農のあり方を、かつて集落の共同作業の仕組みとしてあった「結(ゆい)」に例えて説明してくれた。
横田農場とフクハラファームは田んぼのある場所こそ東西で遠く離れているが、九州大学の南石晃明教授を中心とした研究チームにともに参加するなど、稲作の発展に向けて連携する関係にある。だが営農のあり方は、トップの個性と農場の歴史によって様々だ。フクハラファームを理解することで、水田経営の未来をより広い視点で見ることができるようになると思う。
フクハラファームは、もともと土地改良事業を担う事務所に勤めていた現会長の福原昭一さんが、1990年に専業農家として就農したことでスタートした。1994年には有限会社のフクハラファームを設立して法人経営に移行。無農薬のアイガモ農法や有機栽培など、安全・安心を掲げる環境配慮型の農法で知られるが、今回のテーマは細かい栽培技術ではない。
まずは経営を大づかみで理解することから始めたいと思う。栽培面積は現在、180ヘクタール。日本の農地の平均が3ヘクタール足らずなのと比べてわかるように、「超」のつく大規模経営だ。栽培品目はコメが170ヘクタールで麦が25ヘクタール、キャベツなど野菜が14ヘクタール。合計が180ヘクタールを超えているのは、一部で二毛作を取り入れているからだ。
今回取材したのは、創業者である福原昭一さんの長男で、2017年4月に社長に就いた福原悠平さんだ。農場を訪ねた9月5日は、広大な田んぼで稲刈りが佳境を迎えていた。当然、事務所でゆっくりお茶を飲みながら、記者の質問に答える時間的な余裕はない。田んぼと乾燥施設の間を往復し、収穫した稲を運ぶトラックに同乗しながら、経営の課題について質問した。

インタビューの内容はまず上に記したような、創業の経緯や現在の栽培状況など経営の基本的な内容に関するやり取りから始まった。流れが変わったのは、ICTなど先端技術の活用に触れたときだ。すでに180ヘクタールに達し、さらに規模拡大が進むメガファームにとって、情報システムを活用するのは当然と見られている。だが、福原さんは突如トーンを変えた。
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