あとは、遮熱をどれだけ徹底するかで室内の環境コントロールの精度が決まる。河鰭教授の言葉を借りると、「下も含め、360度ぐるっとまるごとシートで遮熱している」。壁や天井がぴしっと平らだったり、頑丈な素材を使ったりしているわけではない。つまり、「がっちりした構造と、環境のコントロールは関係ない」。ただし、遮熱シートを風雨から守る必要があるため、その外側にテント生地を張っている。これでいよいよ、施設は植物工場のイメージとはほど遠い外観になる。

 コントロールの精度を高めるために工夫した点はほかにもある。病院などで使う調湿機を設置したのもその1つ。室内の湿度を一定に保つことで、植物の生育にプラスに働くだけでなく、中で働くスタッフにも快適な空間を作った。調湿機を通して外の空気を入れるため、二酸化炭素(CO2)を買ってきて補う必要もない。もちろん、外気は除菌してから室内に入れる。

建設費は半分から3分の1

 農業は自然の中に田畑という人工的な空間を作ることから出発し、風雨の影響を減らすために温室を開発した。その延長で、壁面をガラスや特殊なフィルムで覆い、コンピューターで制御するオランダ型のハウスが登場。さらに植物工場が現れ、自然と完全に切り離して作物を作ることへの挑戦が始まった。

 プランツラボラトリーの面白さは、当然のように思われていたこの「進化の流れ」をいったん元に戻し、ビニールハウスの基本構造を残したまま、植物工場に仕立て直した点にある。そのことによって得られる最大の成果が、コストの低減だ。プランツラボラトリーの湯川敦之代表によると、「建設費は通常の植物工場の半分から3分の1」。エアコンの台数が少なくてすむので、ランニングコストを抑えることもできる。

 既存の植物工場の最大の課題は、初期投資と運営経費の重さにある。それは、工場野菜のほとんどが、手のひらサイズのリーフレタスなどの葉菜類であることと無縁ではない。リーフレタスは短期間で育つため、施設の回転率を高め、収益率を向上させることが可能だからだ。回転が速いため、栽培に失敗してもリカバリーしやすいという利点もある。

遮熱シートや調湿機を使う独自の植物工場の仕組み(西東京市の東大生態調和農学機構、画像提供:プランツラボラトリー)
遮熱シートや調湿機を使う独自の植物工場の仕組み(西東京市の東大生態調和農学機構、画像提供:プランツラボラトリー)

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