今風の若い起業家の典型だろうか。菱沼さんの話し方は、肩に力を入れて思いを熱く語るというスタイルではなく、じつに淡々と、ときに笑みをまじえながら進む。そのなかで、自社の経営と都市農業の実情に対する冷静な分析がよどみなく語られていく。

「商人道」を広げる

 とくに興味深かったのが、「商人道」という言葉だ。菱沼さんは「うちがつぶれたら」という言い方で、農家にとってのリスクヘッジという側面から説明してくれたが、農家に販路を開拓する力を身につけてほしいと語る背景には、様々な意味がある。

 「しゅんかしゅんか」は集荷を柱とする独特の運営方法が口コミで農家の間に広がり、「自分も出荷したい」と希望する農家が増えつつある。一方、運営側の悩みは農産物の端境期には助かるが、旬の時期に出荷が集中すると、「しゅんかしゅんか」だけですべてを引き受けることはできない点にある。

 そこで、農家が多様な販路を持っていることが、「しゅんかしゅんか」の今後の展開にとっても、自家消費が中心だった都市農業の発展にとっても大切になってくる。そう考えると、まずは農家が名刺を持つことからスタートし、菱沼さんの言う「商人道」へと進むことがいかに重要かがわかる。

 ちなみに、菱沼さんの語り口を「淡々と」と書いたが、生活は休みをとるのが難しいほど忙しい日々を送っている。菱沼さんは「ベンチャーってそういうものですから」と話す。肩の力を抜いているようにみえて、じつは寸暇も惜しまずチャレンジするそのその姿勢が、光の当たることが少なかった都市農業の潜在力を生かす力になることを期待したい。

新刊! 新たな農の生きる道とは
コメをやめる勇気

兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。

日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売