直接販売を通し、コンビニや外食などの実需者のニーズをつかむことが必要と全農が考え、その拡大が可能だと判断したのは、以上のような事情による。この取材で、全農の担当者は「中・外食用のメニューは長期安定が求められており、複数年契約による安定的な価格形成が必要」と語った。

 テーマはコメ問題の核心にいたる。これまで米価のベンチマークだったのは、全農が毎年提示する概算金だ。概算金は各年の作況や減反の進み具合がそのまま響き、大きく変動する。言い換えれば、概算金を指標にしている限り、米価を安定させることは難しく、中・外食の要望に応えることはできない。

 つまり、「複数年契約による安定的な米価形成」を模索することは、概算金を軸にした米価と距離を置くことを意味しているのだ。委託販売から買取販売への移行と、直接販売がそれを可能にする。持続可能な経営を目指す農家も農協も、補助金や豊凶で米価が乱高下することを望んではいない。

「今回は進次郎の手柄で」

 冒頭に戻ろう。小泉氏は改革の行方を全農の決定に委ねることを決めたとき、「今回は負けて勝つ、だ」と語った。当時の報道はこの発言の影響もあり、「負」のひと言に比重を置いた内容となった。

 世間の関心は、そこで大方熱が冷めた。だが、全農が小泉氏との合意に応えて発表した内容は、予想を覆す大胆なものだった。その柱の1つが、コメの取引の抜本的な変革だ。そこまで含めて考えると、小泉氏はメディアの評価とは違い、負けたのではなく、「勝った」と言えるのかもしれない。

 だが、それも短絡的な評価なのだろう。「将来の総理候補」対「全農」という構図はわかりやすいが、実のところ、両者は離れた場所から非難し合っていたわけではなく、四つに組んで議論を戦わせ、落としどころをさぐっていた。当時、全農からは「今回は進次郎の手柄ということでいいじゃないか」という言葉が漏れた。両者がたんに対立していたわけではないことを、裏付ける言葉だ。

 全農は「もともと自分たちでやろうとしていたことだ」とも強調するが、改革を内側の論議にとどめず、高い数値目標を公表し、その実現へと踏み出せたことの意義は大きい。その背景には、発信力の強い小泉氏の存在が間違いなくあった。今後問われるのは、全農の有言実行。改革が着実に実を結んでいけば、政治の介入も要らなくなる。

新たな農の生きる道とは
コメをやめる勇気

兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。

日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売