中国などとの間で想定される食料の「買い負け」のリスクについてどう見ていますか。

山田:経済規模で見て、日本の地位が低下し、経済シェアが小さくなるというシナリオを肯定するのであれば、「買い負け」は起きうる。中国の影響で日本が高値買いを余儀なくされることも十分ありうる。今は世界的に穀物価格が下げ止まっているが、中国で干ばつなどが重なって政策的に対応できなくなり、輸入を増やしたときの価格への影響は相当ある。大豆やトウモロコシの価格が上がり、それをエサにしている鶏肉や牛肉の値段が上がって、消費者が大きな打撃を受けるということが現実に起こりうる。

 この問題についていろんな人と話をしたが、「たくさんのお金を出せば、買うことはできる」という意見もあった。実際、米国の穀物メジャーからすると、中国が交渉にのぞむ姿勢は事務処理的で値段が決まったらそれで終わりという感じで、あまり利益に結びつかない。それに対し、日本企業なら交渉を通して関係を深め、長期的に安定した取引をすることが可能になる。米国側にとってマージンをたっぷり払ってくれる、おいしい取引相手になっている。

 トランプ米大統領の登場は世界の食料問題の不確実性を高めたが、直接被害を受けるのは米国の市民や農民だったりする。例えば、メキシコのアボカドに高関税がかかり、アボカドの値段が高騰する。中国との摩擦で中国が大豆の調達先のポートフォリオを変え、ブラジルにシフトする。日本は牛肉などで影響が出るかもしれないが、全体として見れば、面白いカードを握っている。

 ただし、そういう立場でいられるのも、日本が「いい客」だと思われているからだ。日本も中国との買い負けを防ぐため、いつでも高値で買うというわけにはいかない。その辺りはもう少しうまくマネージすべきだろう。

食料奪い合いの場面を目撃

そもそもなぜ食料問題に関するリポートを書こうと思ったのですか。

山田:日本企業と仕事をさせてもらっているとき、食料の奪い合いの世界を見る機会があった。今から数年前、日本への安定的な食料輸入のルートを作るため、ある日本企業がブラジルで農地を買おうとした。農地を保有しているブラジル企業と正式な交渉でデューデリジェンスをし、「このくらいの価格でいいんじゃないか」というところまで資産を調べさせてもらった。

 ところが、「いよいよ交渉がまとまりそうだ」というとき、中国企業のグループが1.5~2倍の値段で買っていった。ブラジルの北部の一大農業地帯の農地で、1つの輸出港のキャパを埋めることができるくらいの収量がある。日本企業が中国企業に「買い負ける」ということをまさに目の当たりにした。

 アフリカの農業分野がどうなっているのかを見ようと、奥地まで行って視察したこともある。何もない草原のど真ん中に中国資本のホテルが建っていて、エアコンなど中国製の家電が設置してあって、そこが中国政府の高官と現地の人が話し合う場になっていたりする。環境負荷の低い鶏肉を推奨していることなども含め、中国は複合的、戦略的にサステナビリティーを考えている。

 現代版の食料争奪みたいなことが起きるのではないのか。非常に大きな問題だと思った。できることなら、日本の先端技術や農薬、種子、水の管理などに関係する企業が一丸となって世界に出て行って、食料の生産性を高めるべきだと思う。今後、日本の政府と企業がどこにフォーカスして狙っていくべきなのかを議論したいし、そのための基礎となるファクトをおさえる必要がある。そんなふうに考えたことが、このリポートの出発点にある。

マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社がまとめた食料問題のリポート
マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社がまとめた食料問題のリポート

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