生産効率を上げる余地はまだある
生産効率の向上についてどう考えますか。
山田:食料危機について議論するのなら、まだまだ生産効率を上げる余地があるということを考慮に入れるべきだ。今どういうことが起きているかというと、米国などのメジャープレーヤーに、世界の生産効率を大きく改善しようとするインセンティブが働いていないという状況がある。
大豆の例で顕著だが、現在の世界の需要量にマッチする価格との対比で見ると、米国、アルゼンチン、ブラジルなどはずっと低いコストで生産できている。だから、大きなマージンがある。需要量と価格がバランスするぎりぎりのところにインドがあるとすると、インドはコストが高いのでほとんどもうからない。需要が増えれば、もっと効率の低いところに生産基地が広がって、さらに高い値段で需給が均衡することになる。
そこで何が起きているか。米国の穀物メジャーや農薬メーカーは自らの生産性を上げて利益を増やそうというインセンティブは働くが、インドの生産性を高めたいとは思わない。需給が均衡する価格が下がれば、自らの利益が減ってしまうからだ。残念ながら、米国の農業はどんどんデジタル化が進み、効率的になっていくが、インドなどまだまだ生産性を高める余地のある新興国は状況が変わらないというパラドクスが起きてしまっている。
このパラドクスを解決できれば、世界の食料生産はずっと効率的になる。栽培面積の大きいインドには、相当なポテンシャルがある。

中国の動向をどう見ていますか。
山田:中国は大きな転換点にある。これまではかなりうまくやってきた。所得向上に伴い増加するタンパク質の摂取では、環境負荷の少ない鶏肉を政策的に推奨してきた。牛肉と比べると、同じ重さのタンパク質を生産するために必要な穀物の量が少ないし、肥育時に排出されるCO2の量も少ない。エサのトウモロコシの生産から養鶏に至るバリューチェーンもうまく構築してきた。
ただ、それを今後も続けることは難しくなっている。トウモロコシの生産への補助を財政的にまかなえなくなってきていて、輸入せざるを得ないようになってきている。中国はまだトウモロコシをほぼ自給しているが、もし自給率が20%落ちれば、米国の純輸出量の80%程度に相当する量を輸入する必要が出る。このことは、相当ウオッチする必要がある。
日本は今米国から大量のトウモロコシを輸入している。だが、もし中国が米国のトウモロコシの輸入に傾斜したとき、日本は米国以外のどこから調達するのか。南米なのか。それとも、もっと他の地域があるのか。そういったことを、調達先を分散するという観点から考えなければならない。
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