こうして畑を回りながら、吉沢さんがもっともうれしそうに語ったのが、広々としたサトイモ畑の前に立ったときだった。去年、「10トントラック380台分の土」を山から運んで盛り土し、5年かけて作った堆肥を入れた。

 「去年はまだ土木工事の最中だよ。でも、絶対いい畑にしてみせるって思ったんだ。サトイモの葉っぱが優しく見えねえか? どぎつくないだろ。おれのいままでの技術の集大成だよ。理屈で言ったって、仕方ない。事実すごいだろ、イモが。おれ気に入ってるんだよ」

吉沢さんが「技術の集大成だ」と話すサトイモ畑(埼玉県川越市)
吉沢さんが「技術の集大成だ」と話すサトイモ畑(埼玉県川越市)

 以上、庭のテーブルの座学から畑の見学まで、ベテラン農家への取材結果をお伝えした。大地を守る会の社長の藤田さんによると、「野菜を作る技術がすごく高く、消費者の支持も圧倒的に高い」という。

 じつはインタビューをしているとき、無農薬栽培に切り替えたときの苦労を聞き出そうとした。だが、吉沢さんが語りたかったのは、そういう細かいことではなく、栽培の基本的な考え方だった。それが「酒量の例え」だったのだろう。あとは、畑を見て「事実すごい」と実感すればすむ。生き生きとした畑の様子は、吉沢さんの農業がいかに充実しているかを雄弁に物語っていた。

愛車のポルシェ911カレラを運転する。加速がすごく、停止は滑らかだった。(埼玉県川越市)
愛車のポルシェ911カレラを運転する。加速がすごく、停止は滑らかだった。(埼玉県川越市)
新たな農の生きる道とは
コメをやめる勇気

兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。

日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売