吉沢さんたちの考え方の基本は、作物をコントロールすべき対象ととらえ、栄養さえ与えれば育つという発想を排除することにある。重視しているのは作物の側から考え、バランスのいい環境を整えることだ。「肥料をやったら、作物が『ああ、うれしい』って吸収したくなるようなやり方だよ」。

 一番嫌うのは過剰だ。だから、「私は3、4本飲んでますよ」という言葉に反応したのだろう。生活習慣病になってから医者にかかるのと同じように、野菜が元気に育たない作り方をしておいて、農薬をまいて乗りきろうという考え方も厳しく批判した。「大根が腐るように育ててるんだから、腐るほうが正しいんだよ」。

生やしちゃ、耕し、生やしちゃ、耕し

 「座学」はここまで。最後に、畑の様子に触れておこう。吉沢さんは歩きながら、雑草の芽を見つけると、その都度、さっと足先で払った。畑には、適切なタイミングで「泥をかける」という。雑草が生えるのを防ぐためだ。「草が見えてから、対策してもダメなんだよ」。作物が育つと、日が差さなくなるので、もう雑草は生えない。「そうなると、草むしりゼロ」。

雑草を見つけるとすぐ足で払う。(埼玉県川越市)
雑草を見つけるとすぐ足で払う。(埼玉県川越市)

 ただし、これは補完的な雑草対策だ。吉沢さんが語ったのは、もっと根本的なやり方だった。「作物を作ってないとき、わざと雑草を生やす。芽が出たら、そこを耕す。生やしちゃ、耕し、生やしちゃ、耕し。10年やってみなよ、あとは生えなくなるよ」。肝心なのは、芽が出てから雑草をやっつける点にある。「芽が出ないうちに一生懸命耕しても、ちっとも草は減らないよ」。

 畑の隅には、堆肥場があった。生木や材木を粉々に砕いたチップと野菜の残さや家畜の糞を混ぜ、堆肥を作る。生木を砕いたものは、「すぐにポッポッと発酵する」。だが、乾いた材木はずっと時間がかかる。「これはあと3年。もう3年たってるけど、こんなのは例外だよ」。時間に追われる会社員の仕事のリズムと、ベテラン農家の時間の流れの違いに感じ入った。

 小さな大根畑に出た。畑に残っているのは、収穫を諦めた大根の数々だ。「この通り、もうダメだ」。秋用の品種の種が残っていたので、試してみたという。「暑いときにまいて、寒くなっていくのならいいが、暑くなっていく時期はダメだな。お盆にまくと、いいのがとれるんだよ」。遊び心か、あるいは好奇心か。70代半ばになってなお、「試してみる」という気持ちでいるのだ。

秋用の大根を試しに作ってみた。(埼玉県川越市)
秋用の大根を試しに作ってみた。(埼玉県川越市)