吉沢さんはここで改めて、農家が陥っていた問題について語った。「戦後間もないときは化学肥料なんてなかった。ところが、化学肥料を買ってきてまくと、前よりよくとれた。隣は2つやったら倍とれた。そしたら、肥料屋が『隣は3つ入れたから、5つぐらい入れたほうがいい』と言って売りに来た。何年かはよかったよ。あんたがビール3本飲んで、『気分いい』と言うのと同じだ」。

 これとは反対に、吉沢さんが「ある人」から学んだのは、まったく別の考え方だった。「畑を耕して種を落とすと、黙っててもまっすぐ育つ。病気も出ない。でも、育つには腹が減るでしょ。そしたら、必要な量を判断して肥料をやる」。吉沢さんはこのときのことを、「目からウロコ。そうだ、これが本当かもしれないとパッと来たんだよ」とふり返る。

バランスよく、減らすことが大事

 この辺りで、藤田さんが助け舟を出してくれた。「貧しい時代は飢えて病気になるので、たくさん食べさせることが必要。いまや、栄養過多が病気を引き起こす。植物も同じ。重造さんは、栄養はバランスよく、必要なものだけをやらなければならないと言っているんです」。藤田さんは吉沢さんの言葉を代弁し、「バランス」の大切さを強調した。

 「減らすことが大事。多すぎると、バランスが崩れるじゃないですか。ミネラルのうち、どれかが多いと病気になりやすい。多すぎるものを減らす。苦土(マグネシウム)が多すぎるなら、それを入れなければ、全体のバランスがよくなる。そういうふうに観察する」

大地を守る会の藤田和芳さんは「重造さんと一緒に成長してきた」と話す。(埼玉県川越市)
大地を守る会の藤田和芳さんは「重造さんと一緒に成長してきた」と話す。(埼玉県川越市)

 これで、吉沢さんの次の言葉がぐっと理解しやすくなった。「石灰、窒素、リン酸、カリ、苦土。バランスがいいと取れるものもいい。例えば、窒素が多すぎると腐る。ニンジンを収穫するとき、『この状態だと、これが多すぎる。次はまるっきり、やらねえほうがいい』と考える」。それが観察の意味だ。

 吉沢さんが一冊の本を持ってきてくれた。タイトルは「新栽培技術の理論体系」。「読んでも、わかんなかったねえ。これを畑で活かす方法なんてあんのかってね。でも、だんだんわかってくるんだよ」。研究者とは違い、生産者は畑と向き合いながら技術を理解する。

 「新栽培技術の理論体系」は約70年前に書かれた本で、著者はブドウの「巨峰」を育成した民間農学者の大井上康。作物の生育段階に応じてバランスよく適切に栄養を与える栽培方法を提唱した。「ある人」はその理論に共感し、生産者に説いていた果物商。埼玉県内にはほかにもこの理論を実践している農家がいて、そのつてで大地を守る会と吉沢さんのつき合いが始まった。

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