次は本題。どういう経緯で、大地を守る会との取引が始まったかだ。この質問に、吉沢さんは2つの苦いエピソードを説明してくれた。1つは、「昭和の後期」のころ、吉沢さんたちの地域がニンジンで農林水産大臣賞をとった。「とっちゃうとみんなこれになる」。天狗になってしまったという意味だ。
「千葉や茨城からバスが80台見学に来た」。だが、「日本一」と喜んでいたのもつかの間だった。千葉や茨城との競争が始まり、2、3年後には「産地が崩壊してしまった」。理由を聞くと、肥料をやり過ぎたためという。「馬が食うもんじゃねえのかって言われた」。品質で劣るようになったのだ。
もう1つは、植物の3大栄養素のリン酸にまつわる話だ。「いくら肥料を入れても効果が出ない。リン酸は100から150あればいいんだよ。調べてみたら、300あったから3倍。これって何。3倍もあるのに欠乏が出るってどういうことなんだ」。植物がうまくリン酸を吸収できていなかったのだ。ここで、「ビールの例え」が炸裂した。
「それは農家が腐らせているんです」
「ビール毎日3本飲んでる? いまは何でもねえよ。でも、続けてみなよ。いつか『ああ、あんとき』って思うよ。缶ビール1つで『なんてありがてえ一日だ』って思ってりゃ、いいんだよ」
念のために触れておくと、吉沢さんは終始ニコニコしながら、こんな調子で話し続けた。文字にするとちょっとキツイ感じになるかもしれないが、終始朗らかだった。
そこで、もう一度、取引のきっかけを聞いてみた。「まだ農薬を使ってたとき、ある人と出会って、『これから世の中が変わる。安全でおいしいものじゃないと食べない人が出てくる』って言われたんだ。それで勉強を始めた」。目指すべきは、農薬を使わず、味のいい作物を作ることだった。ここで再び炸裂。
「あんたがビール3本飲んでるのが間違ってんの。できりゃあ、飲まねえほうがいいの。植物も同じなんだよ」
吉沢さんはこの「ある人」から、それこそキツイひと言を言われた。「あなたたちがやっていることは全部間違ってます」。相手はリンゴやブドウなどの果物の販売業者だった。「そう言われたら、どうする? ふざけんな、コノヤローって言いたくなるだろ」。だが、吉沢さんは話を聞いているうちに考えが変わっていったという。
吉沢さんのメーンの作物である大根を例にとって「ある人」は説明した。「大根はね、みんな真っすぐ育ちたいと思っているんです」「そんなこと言ったって、曲がったり、割れたり、腐ったりするよ」「それは農家が腐らせているんです」。この言葉は、吉沢さんが漠然と感じていたことを言い当てていた。
「たまげたね。事実だよ。あんなに肥料やってもよくならないのを、不思議に思ってたんだ。悪いものを作るために肥料やってたようなもんだよ」
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