もちろん、工業製品と違い、個々の農家は天候リスクにさらされているし、栽培した農産物をすべてオイシックスが引き取ってくれるわけではない。だが植物工場など一部の例外を除くと難しかったジャスト・イン・タイムの手法に半歩踏み出す手がかりにはなる。それを支えるのは、徹底したマーケット・インの発想だ。

 一方で、オイシックスはマーケット主義に偏重し、食材をたんなる素材ととらえるやり方にも距離を置こうとしている。簡便性だけで戦ってしまえば、商品がコモディティー化し、付加価値が相対化して、競争力が低下すると考えているからだ。だから、信頼できる生産者とのつながりを大事にし、おいしくて安全な食材であることを利用者に伝える努力は今後も続ける。

「おれのコメはおかずが要らない」は正義なのか?

 ずいぶん前になるが、コメ農家を取材したとき、「おれの作ったコメはおかずが要らない」と言われたことがあった。そのことをある研究者に話すと、「農家にとってはそれが大切」という反応が返ってきた。そういうコメは食べてみると確かにおいしい。だが、おかずなしでご飯を楽しむ消費者が実在するだろうか。決定的に欠落しているのは、利用者が置かれた状況への理解だ。

 女性の社会進出は不可逆的な流れであり、いくら働き方改革が進もうと、働いていなかったときと比べれば、忙しくなる。そこに「頑張っているお母さん」という新しいマーケットが発生する。そういう変化をもとに発想することは、農業の未来を考えるうえで、1つのヒントを提供してくれる。

 他産業と同様、インターネットは食と農のあり方を劇的に変えていくだろう。今回は、宣伝っぽく見えるのを覚悟のうえで、オイシックスのミールキットにしぼってその内容を詳述した。生産から販売にいたるネットと農業との関わりは、今後も継続して深掘りしていきたいテーマだ。

 おまけで一言。商品名の「キットオイシックス」が、もし「オイシックスキット」だったらどうなるか。文字だけだと似たようなものに見えるが、声に出してみると、その響きに大きな違いがあることがわかる。自社の価値を高めるブランディングの妙味と言うべきだろう。