農業を取材していると、ある種の先入観、決めつけを感じることが少なからずある。有機農業は農薬も化学肥料も使わないから収量も品質も安定しないという考え方はその代表例だろう。だが一方でそんな「常識」を、最新の技術で破ろうとしている人たちがいる。有機肥料の販売や技術指導を手がけるジャパンバイオファーム(長野県伊那市)の小祝政明さんはその1人だ(2015年9月25日「桃より甘いホウレンソウができるわけ」)。
昨年12月、熊本県山都町の有機農家、飯星淳一さんを訪ねた。小祝さんの提唱する栽培方法をもとに、飯星さんが本格的にニンジンの栽培を始めて、これで4作目になる。以前は10アール当たりの収量が1~2トン程度だったが、3作目で6トンに増えた。

栄養価も高まった。普通の栽培方法だとニンジンの糖度は4~5度程度だが、飯星さんは高いときで9度を超す。形や大きさが規格外で、安値でしか売れないニンジンも減った。雑草が減ったので、草刈りの手間も軽減できた。
というわけで、味も量も向上したのだが、飯星さんの話でもっとも印象的だったのが、畑の土の様子だ。「以前は冬は畑の土が硬くて、ニンジンを一本一本引くのが大変でした。いまはサクサク抜けるようになりました」。ここに、味と収量を安定させる技術の核心がある。
百聞は一見にしかず。飯星さんに促されて畑でニンジンを引くと、たしかにすっと抜ける。ふかふかの土とは、こういうものをいうのだろう。と感心していると、飯星さんがニンジンの葉を4、5本まとめてつかんで抜き始めた。収穫したニンジンをその場で並べると、形と大きさにバラツキがほとんどない。飯星さんは満足そうな笑みを浮かべた。
というわけで、今回は実際の畑での取材を踏まえ、小祝さんに改めてインタビューした。
オーストラリアで牧草の研究
どうやって栽培技術を確立したのですか。
「27歳のときつくばで就農し、有機農業をやっていました。4、5年して成果が出たころ、オーストラリアの有機農業の研究所のトップが筑波大の私の知人の教授を訪ね、『農家を紹介してほしい』と。そこで私が紹介され、私がつくった野菜を食べてもらったところ、『おいしい』と喜んでくれて、私も農業をたたんで研究所に行くことになりました。1991年ごろのことです」
「現地の農場を管理しながら、牧草を育てる研究員として赴任しました。農場といっても日本と違い、2700ヘクタールと広大で、1ヘクタールにつき、牛1頭です。そこで何とか冬も青々とした牧草を育てようと思い、魚を微生物の酵素で分解し、液状にしてまくと、草が育ちました。(窒素を含む有機化合物の)アミノ酸です」

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