「まさしく期待した通りになりました」。そう言って長嶋さんが差し出したグラフを見ると、成果は一目瞭然だった。これまでは11月~12月ころにかけて収量が上がったあと、年明けや春先に収量が落ちていた。秋ごろに大量にトマトを実らせて木が弱るのと、気温の低下が重なり、受粉に影響するからだ。

システムの活用に手応えを感じ始めた長嶋智久さんと妻の絵美さん(宇都宮市)
システムの活用に手応えを感じ始めた長嶋智久さんと妻の絵美さん(宇都宮市)

 これに対し、2017年のグラフを見ると、例年と比べて収量が多く、しかも年明け以降に収量がほとんど減っていない。「11月くらいにピークが来てその後も落ちず、ずっと横ばいで5月ころまで収穫できました」。収量がM字型に乱高下した15年度のグラフと比べると、17年11月以降の安定ぶりが際立つ。

 今作は、必ずしも栽培環境に恵まれていたわけではない。それどころか、「今年の1、2月は記録的な寒さで、気温がマイナス10度まで下がるときもありました」。もし例年並みの寒さなら、収量はもっと増えていたかもしれない。一方、これまで通りのやり方で栽培している周囲の農家は寒さの影響が大きく出て、トマトが十分な大きさに育たないケースも少なくなかったという。

 今はゼロアグリの役割に手応えを感じている長嶋さんだが、養液の供給をAIの判断に任せる効果を初めから確信していたわけではない。というより、当初は半信半疑。「たんにトマトに水をやるツールだと思ってました」。だから、自分が水をやるべきだと感じているとき、点滴チューブに養液が流れていなかったりすると、イライラすることもあったという。システムを信じ切れず、手動に切り替えて水を供給したこともあった。

AIの判断に任せる考えに変わった理由

 だが、使っているうちに、考え方が変化した。まずゼロアグリの制御で日々供給される水の量を見て一喜一憂するより、1週間など長いスパンで観察すべきだと考えるようになった。「自分がどれだけトマトの木に張り付いて見ていても、土の中にどれだけ水があるのかはわからない」ことに思いいたったからだ。そして、実際、収量が安定し始めた。「今年はもっとゼロアグリに任せてみようと思ってます」という。

 成果は収量の増加と安定にとどまらない。先を見通せるようになったことで、仕事が後手に回るのを防ぐことができるようになった。その結果、余裕を持って土壌消毒を実施できるようになった。

 トマトの場合、土の中に菌がはびこって、収量が落ちることがある。トマトの木が弱り、収量が減るなど影響が顕在化していなくても、夏の植え替えの時期に病気が発生していることに気づくことがある。通常なら、ハウスを閉め切ってシートを敷き、太陽光の熱で菌を殺したり、薬剤を使って消毒したりする。

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