この問題をつきつめると、「農家にとって収益とは何か」という疑問につながってくる。この問いかけに対し、多くのコメ農家は何の疑問も抱かず、「コメの売上代金だ」と答えるだろう。だが、作業の受委託がもっと広く行われるようになれば、一部の生産者にとって「売り上げは作業代金」という新たな世界が開けてくる。売買を通したコメの所有権の移転と、農作業とが切りはなされることで、「だれがどうリスクを負うか」という収益構造の核心部分で多様性が生まれる。

 もちろん、「新潟はコシヒカリ」「秋田はあきたこまち」など、特定の品種にこだわっていては、作業受託による効率化はすぐ壁に当たる。この連載で何回か取り上げてきた茨城県の横田農場のように、品種の数を増やし、田植え機やコンバインを使う期間を長くすることが、効率化にとって不可欠になる(5月20日「現代の篤農、学界とコラボで『限界の先』へ」)。

 三井住友銀の計画を俯瞰し、ポイントを洗えば、以上のようになるだろうか。冒頭で「地味」という言葉を使ったが、「地道」に置きかえるべきかもしれない。同社もこれまでの失敗例をよく調べているはずで、現時点では「事業の分岐点を探す」という姿勢に徹している。

多様な挑戦が課題と展望を明らかに

 最後に付言すれば、筆者は「企業が参入すれば農業は何とかなる」という意見には反対している。経済合理性とは別物だが、「家族の無償の労働」に頼る既存の農業のほうが、利益を出すことが求められる企業参入と比べ、経営の継続性という面でタフなことも往々にしてある。

 ただし、ふつうの農家から出発し、有力な農業法人を率いるまでになった経営者に共通なように、農業も「企業的な経営センス」が必要になっている。これまでの企業参入に成功事例がほとんどないからと言って、「企業には農業は無理」と断定することもできない。

 「10年で1000ヘクタール」という目標を、三井住友銀が達成できるかどうかをいま占うことには意味がないし、占うだけの根拠もない。だが、三井住友銀がやろうとしていることを点検するだけで、企業参入も含め、既存の農業経営の課題が見えてくる。農業界の一部には、「企業に農業ができるか」という冷ややかな声もあるだろうが、いまは多様な形の挑戦が、未来への展望を開く可能性を指摘するにとどめたい

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