なぜ植物工場の世界に入ったのですか。

北島:両親とも実家は農家ですが、農業を継いだのはどちらも叔父です。小さいころから農業に慣れ親しんできましたが、自分は農業を継ぐことができなかったという思いが原点にあります。

 自分が農業に携わることができないというもどかしさを抱えながら、大学院時代まで分子生物学を研究していました。そうした中で思ったのが、もっと生産性が高く、科学をインストールした農業をやりたいということです。

 植物工場は生産性を高める努力をしやすい。LEDは電気代が安いというメリットもありますが、光の色によって植物の生長が変わるという点も大きい。新しい可能性が出てきているんです。効率はまだまだ高まります。

 これまでの農業は土地に縛られてきました。先祖代々のゆかりの地で、農業をするのが当たり前。土地を守っていくのが仕事。それは大切なことですが、生産性を高めるのを邪魔してきた面もあると思います。

 スプレッドに入ってみて、農業が抱えている問題を解決できる可能性があると感じました。どこでも生産できるということは、私にとっては衝撃的なことでした。これまでの農業は経験や勘に頼り、天候に左右されることが生産性を奪い、流通と戦えない環境を作ってきたように思います。もしかしたら、植物工場なら農業をそういう状況から脱却させてくれるかもしれない。

 植物工場には土地の制約がない。べつに大地の上でなくてもいいんです。それこそ、海の上でもいいし、宇宙でさえもできる。だから、社名に「シップ」という言葉をつけたんです。

共同代表の安田瑞希氏と(東京都中央区のオフィス)

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やっていることは、農業

 強く印象に残ったのが、「農業を知らない人たちの新規参入が多い」という言葉だ。大学や企業の研究室の延長だったり、空いた土地の有効活用の一環だったりというノリで植物工場ビジネスに参入し、経営を軌道に乗せることに失敗する。そこで直面するのは、生き物を生産し、販売することの難しさという既存の農業と共通の課題だ。

 取材を通して感じたのは、「自分たちのやっていることは農業だ」という強い思いだ。水田や畑の誕生から、ビニールハウスの登場、さらに高度に環境を制御するガラスハウスまで、農業はつねに技術革新と歩をそろえながら発展してきた。

 ただし、いくら新しい技術を使っても、自分がやっていることが農業であるという自覚がなければ、成功はしない。インタビューの後段を見ると、植物工場のバラ色の未来ばかり語っているように感じるかもしれないが、北島氏が最初に強調したのは「中途半端な気持ちではうまくいかない」という点だ。その難しさこそ、農業に挑戦する意義とも思う。

新たな農の生きる道とは
コメをやめる勇気

兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。

日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売