農匠ナビはこの難題を解決するため、田んぼと水路をつなぐ短いホースを上下させることで、水の流出入をコントロールすることにした。イメージは日本庭園の「ししおどし」。ホースを下げると田んぼに水が入り、上げると田んぼに入らず、用水路の中を素通りする。ホースの上げ下げはセンサーで自動制御するが、水位の下限と上限をあらかじめ決めておくのは農家だ。
「なんとローテクな」と思うかもしれないが、「ししおどし」方式にすることで、稲わらや砂利が水の流入を邪魔するのを防ぐことを可能にした。日本中の用水路をみんなパイプラインにすることができるなら、もっとスマートにシャッター式で制御すればいいだろう。だが、その資金を誰が負担するのか。現にある水田の状況を前提にすれば、「ハイテク」に見えるかどうかが問題なのではなく、現実に使えるものかどうかが重要だということに気づく。
というわけで、現場で機械がどのように使われているのかを確認することが、取材のテーマになる。その機会が6月16日に訪れた。農匠ナビの社長、横田修一氏が運営する「横田農場」(茨城県龍ケ崎市)で見学会が開かれた。

田植えの真っ最中の横田農場は面積が約140ヘクタールと、日本の田んぼの平均をはるかに上回る広大な農場だ。その田んぼの間の農道を横田氏の引率で記者団が進んでいくと、試作中の自動給水機が見えてきた。
確かにそれは、手作り感が前面に出た機械だった。金属製の四角い箱が田んぼのへりに刺さっていて、くりぬいた箱の真ん中に「ししおどし」のホースが釣り下げられている。ホースは斜めに上を向いているので、給水はしていない状態だ。見学会だからといって、無理に水を入れたりしないのは、そこが実際に営農している田んぼだからだ。研究用の圃場ではない。
専門記者から出てきた感想の重み
もし集まったのが、農業のことをよく知らない記者ばかりだったら、このシンプルな機械を見て、ちょっとがっかりしたかもしれない。だが、この日田んぼに足を運んだのは、農業が専門の記者が中心だ。知人のフリージャーナリストも自動給水機の説明を聞きながら、「やっぱりこういうのが、地に足がついていていいね」と感心していた。
「デジタルだと格好良く感じるかもしれない。でも、ぼくら農家が目で見た感覚で水位を合わせることができるのが重要」
現場で横田氏が語った言葉だ。何気ないセリフに聞こえるかもしれないが、あえて自分たちのやっていることは「アナログ的」だと受け止められかねないこの表現は、「そうでなければならない」という強い確信が背景にある。
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