米は栽培された土地の水で炊いたほうが、おいしく炊くことができる――。インタビューの最後のほうで出てくる黒木さんのこの言葉に対し、読者のなかには「本当?」と思った人もいるかもしれない。だがこの言葉は、料理の味をとことん追求する職人の執念のようなものだと受け止めるべきだろう。

信念にもとづく大胆な一歩を

 まずは直観で答えをつかみとる。それを、自分の腕で実現する。おそらく、「ちゃんと説明できる料理人になりたい」という思いは、たんに「言葉で話す」という意味ではないだろう。料理を食べる人を納得させることができるのは、料理の味でしかないからだ。

 近正さんにも似たところがある。農薬も肥料(化学肥料だけでなく有機肥料も)もいっさい使わずに作った米を、自社の最上級の米と位置づける。それをモミのまま、地元の雪を使った倉庫で保冷し、注文を受けてからモミをとって出荷する。既存の稲作が省みなかったことに挑戦し続け、「日本一予約のとりにくい店」の米へと躍進した。

雪で保冷し、注文を受けてからモミをとる「雪蔵今摺り米」(日本橋三越本店)

 肝心なのは、2人が組むことで、まだ小さいが、強い光を放つ灯が日本の稲作にともったことだろう。活路を開くのは、理屈ですぐわかる作戦ではなく、信念にもとづく大胆な一歩だと思う。とかく経営ノウハウに目が行きがちだが、イノベーションの核ともいうべきものの大切さを確認して、今回はしめくくりとしたい。

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