今後の課題は何でしょう。

黒木:「海外の人に『日本のお米はおいしい』って言わせたいんです。この間、マレーシアに行く機会があったんで、越後ファームさんのお米で鯛茶漬けを作ったんです。お茶漬けって日本の文化ですから。そうしたら、向こうの人は『もっと細くてぱさぱさしたお米がいい』って言うんです。ようは、タイ米とかそういうのがいいってことです」

 「これは失敗したなって思うんです。お米をおだしに漬けずに、そのまま食べさせればよかったんです。これはお米なのか、何なのかってのを、ちゃんと感じ取らせるようにすればよかったと思いました。日本のお米は世界でトップクラスなので、それを海外の人たちに伝えることができれば、僕の役割は終わりかなと思いますけどね」

 「いまおすし屋さんがたくさん海外出店してますけど、日本のお米の良さをちゃんと伝えられていない。なぜかと言うと、料理には足し算の料理と引き算の料理があるんです。僕らは食材から引き算をして日本料理を作る。おすし屋さんは食材をプラスしていく料理なんです。自分たちの独自のこだわったお酢をお米に入れて、お米の味をぼやかし、さらにその上にネタを乗せる」

米をおいしくする水とは?

 「これはべつに悪い話じゃないんですよ。おすし屋さんがお米にこだわるのって、硬さなんです。シャリにしたとき、口のなかでどうばらけるかとか。酢の強さとか。だからおすし屋さんがお米を伝えるのはかなり難しいと思います」

 「うちは今年中ぐらいに移転するんですけど、『おくどさん』を作りたいんです。土でできた昔のキッチンに、釜を置いて炊くという格好で、お米を前面に出す店にしようと思ってるんです」

 「それをやるにあたって、飯炊き水についてもいま相談させてもらってます。お米って自分の育った環境の水で炊くからおいしいんです。向こうでお米を買ってこっちで炊いても、『あれ、向こうで食べたのと違う』って反応になる。自分が形成された水で炊くから、お米っておいしくなるっていうところまで、ちゃんと説明できる料理人になりたい」

近正:「おれは和食界で、『米と言えばくろぎ、くろぎと言えば米』と言われるようになりたい。黒木さんのその一言がずっと頭に残ってます。こういうことを言う料理人に初めて会ったんです。だからこの人と組みたいって思ったんです」