「操作が簡単で楽で、しかも作業を最適にする」のが開発の目的だと先に触れた。このうち、生産者がもっとも恩恵を感じやすいのは「楽」だろう。1~2ヘクタールの経営がふつうだった過去の稲作と違い、高齢農家の引退で農地の集約が進んだ結果、100ヘクタールを超す経営が各地で誕生している。メガファームとも言うべき広大な農場で、田植え機やコンバインをまっすぐ正確に走らせ続けることに、熟練の作業員でも大きなストレスや疲労を感じている。その負担の軽減は「楽」につながるだけでなく、疲れて「最適」に作業できなくなることも防ぐ。

 一方、「簡単」であることが、入ったばかりのスタッフの活用に役立つかどうかは意見が分かれるところだろう。まず多くの農家は、1500万円もするような高価な機械を新人スタッフに扱わせることに二の足を踏む可能性が大きい。そうすると、キャビンに座るのは自分かベテラン従業員だ。農家が感じるメリットはやはり「楽」と「最適」のほうが大きいだろう。

 もう1つ重要なのは、パートが大勢働く植物工場と違い、稲作の大規模経営は今後もかなりの長期間、スタッフの習熟度に負う面が大きいという点だ。種まき、移植、肥料の供給、収穫など作業をスタッフに個別に割り当てやすい工場と違い、稲作は植物の生育状況や雑草の生え具合、水の状態などを見て機動的に作業内容を変える必要がある。

困難な「人の熟練」との決別

 「センサーを使い、AIを活用してビッグデータを分析すればいい」と思うかもしれないが、植物工場と違い、自然のもとにある水田は栽培環境の変数がはるかに多い。ITやロボットの力を借りつつも、「人の熟練」と決別して経営を成り立たせるには、まだ長い時間がかかるのは確実で、そのゴールも見えていない。スタッフが機械の扱いに慣れることは当面、人の成長と経営の向上が歩調を合わせるプロセスの一環としてある。

 政府のバックアップについても考える必要がある。クボタは「0・5ヘクタールの田んぼで作業時間を10%減らすことができる」と説明する。だが、0・5ヘクタールの田んぼから幅6メートルの外周を引き、残りの0・3ヘクタール強を自動で「楽」に運転するために高額な機械を買うだろうか。

 0・1ヘクタール程度の細切れの田んぼがたくさんある中で、0・5ヘクタールは広く感じるかもしれないが、一区画で1~2ヘクタールくらいあったほうが生産者が十分に効果を実感できるのではないだろうか。これは機械の性能の問題ではなく、それを受け入れる田んぼという「インフラ」の課題だ。

 この点、今の農政はインフラ整備を積極的に支援するようになっている。地域の担い手に農地を集約しつつあることや、まとまった農地を対象にすることなどを条件に、田んぼの大区画化のための費用の半額を補助金で助成する仕組みがある。ここで考えるべきなのは、補助金の目的だ。