日本の農業の生き残り策をさぐるこの連載では、何人かの農業者を継続的にウオッチしている。越後ファーム(新潟県阿賀町)を経営する近正宏光さんはその1人。直近では、日本航空(JAL)の国際線のファーストクラスとビジネスクラスの和食で、同社の米が採用されたことを紹介した。(3月18日「なぜJALは脱サラ農家のコメを選んだのか」)。

 越後ファームに注目する理由はいたってシンプル。都内の不動産会社に勤めていた近正さんが同社を立ち上げたのは10年前。日本には90万を超す米農家がいて、その中には数十年以上、稲作をやっている人も少なくない。なのになぜ、越後ファームの米がファーストクラスの食材に選ばれるのか。

 越後ファームの躍進を証す事例はほかにもある。日本橋三越本店の食品売り場で米店を開いているのは同社だけ。東京・湯島の和食店「くろぎ」も、同社の米を使っている。くろぎは「日本一予約の取りにくい店」で知られ、オーナーシェフは一流シェフが料理の腕を競う番組「アイアンシェフ」に出演していた黒木純さんだ。

 なぜくろぎは越後ファームの米を使うようになったのか。どうすれば米の価値を高めることができるのか。近正さんと黒木さんにインタビューした。

「お米をカスタマイズしたい」」

――2人はどういうきっかけで出会ったのですか。

黒木 「もともと、うちにお客さんとして来てくれたのがきっかけです。僕は料理人として和食をやっていて、ダシと比較するのも何ですが、僕にとってお米はダシと同じくらい重要な位置づけにあります。いろいろこだわって、自分のお米をカスタマイズしたいと思ってます」

 「『かいせき料理』には懐石料理と会席料理の2種類あるんですけど、最初にお米が出るか、最後にお米が出るかの違いがあるんです。『懐』の懐石のほうはお茶を主体とした料理で、一番最初にお米を出します。これに対し、『会う』会席のほうはお酒が主体のコースの流れがあって、お米は最後に出ます」

 「うちはカウンター割烹(かっぽう)で、『会う』ほうの会席です。お米が最後に出るということは、コースのストーリー上、重要なポジションにあるんです。炊き込みご飯とか、材料に合わせてお米を選ぶ。そういうことをやっていきたいという思いがすごくありまして、そんなことをちらっと近正さんに言ったら、『うちは全部カスタマイズできます。黒木さんの思いをかなえてあげますよ』って言ってくれたんです」

 「2年くらい前のことです。ぼくがおかずに関する本(『くろぎのおかず』)を出版するにあたり、おかずって何なのかを考えていたころです。おかずって白いご飯がないと存在しないですよね。パートナーはご飯なんです。ちょうど出版社の方が、近正さん(の本『コメの嘘と真実』の担当者)と同じ方で、2人を結びつけてくれたんです」

店の「ライブ感」を重視する黒木純さん(撮影はUNIWORX飯田あずみ氏)