日本のトマトの収量はどんなレベルにありますか。

久枝:いま一般的な農家で1平方メートル当たり25キロぐらい、上手な人で30キロぐらいです。これに対し、海外は60~70キロぐらいです。世界ではふつうに知っていることを、日本の農家が知らないために伸びていないというケースがけっこうあります。

 既存の設備でも、ちゃんと使えば収量は増えます。炭酸ガスの量を制御し、栄養生長と生殖生長をコントロールする。そういうことが、日本の農業では実践されてこなかったんです。日東紡にいたとき、農家向けの勉強会をやりました。もともと収量が15キロぐらいだった人が、日本ではトップレベルの30キロぐらいになりました。

 ノウハウを教えてしまうと、自分の立場が危うくなるので、教えないということが農業の世界にはないでしょうか。名人に逆らうと、居心地が悪くなるような環境がないでしょうか。でも、勉強会に出ただけで、若手が名人を追いこすようなことが起きるんです。

研究成果を社会実装しやすい環境へ

それでもオランダと比べると、ずいぶん収量が少ないですね。

久枝:若手が名人を逆転するようなことが起きにくい環境がありました。制度面で言うと、農業改良普及員がハイテクな農業に対応してきたでしょうか。国内でも情報格差があります。まして、海外の最新情報を得られない状態が続くと、差がどんどん広がってしまいます。

 カゴメの収量はオランダと遜色ないレベルになっています。ただし、オランダで60キロはふつうに誰でも実現できる収量です。いまはそこで停滞していますが、オランダが追求しているのはこの先の技術革新です。

研究レベルで日本は劣っているのでしょうか。

久枝:オランダと日本の論文を比較すると、内容に大きな差はありません。コンサルティングの仕事のほかに、大学の先生とベンチャーで、植物の光合成の機能の測定をしています。人間では測ることのできない指標を使い、作物を栽培するのが目的です。そういうものが、栽培技術の次のステージになります。

 問題はその先です。オランダには日本と違い、研究成果を社会実装しやすい環境があります。実際の現場に入れやすいんです。企業が投資をして収穫ロボットを造ったとして、何台売れるかという話です。1万台売れるのと、10台しか売れないのとは全然違う。

 オランダは収量が多く、販売力もあるところでないと生き残れない経営環境にあります。2000年ごろからそういう傾向が一段と強まりました。その結果、栽培面積はいま7ヘクタール強ぐらいあります。一方、日本は0.3ヘクタール程度しかありません。ビジネスの環境がまったく違うんです。

 施設園芸の周辺にはいろんな業界があります。例えば、ランプを磨く専門の業者がいます。太陽光を補い、光合成を促進するためのランプがあります。長い間使っていると汚れて光量が落ちます。それを洗浄する会社です。

 このランプを使うと収量と品質が何パーセント上がるかを農家がわかっていれば、コスト計算ができて、設備投資をします。だから、それを磨くサービスが産業として成り立つんです。日本ではそういう考えでやっている農家は極めて少ないように思えます。

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