日本の農家はお金を払って指導を受ける習慣があまりありません。

久枝:世羅菜園で2007年まで働いたあとグロダンに転職し、日本の駐在員になりました。こういうノウハウを持った会社に入らないと、本当の技術的なところはわからないと思ったからです。

 グロダンのロックウールは高付加価値ですが、その分、値段は非常に高い。そこで、技術指導をセットにして、「こうやればもうかりますよ」と説明し、商品を買ってもらうというビジネスモデルでした。日本では、農業のノウハウは基本的にただです。有償でコンサルティングを受けた相手はほとんどありません。カゴメは珍しい存在でした。

「明日要る」ではダメ

カゴメの施設運営が軌道に乗った理由はほかにもありますか。

久枝:技術的なところばかりが注目されますが、重要なのは運営です。やるべきことをちゃんとやる。それが難しいんです。次の週のトマトの出荷量を予想し、必要な人数を計算し、想定した通りに働いてもらう。カゴメの温室が広まったのは、運営管理の仕組みをしっかりと作ったからです。失敗することがまずないような現場を作ったんです。

 1ヘクタールだと、20~30人を集め、「みんなで頑張ろう」で何とかなります。それが3ヘクタールになると、日常的に50~60人が働いていて、忙しいときは100人ぐらいの組織になります。いくら「頑張ろう」ってかけ声をかけても、どうしようもない事態が起きます。「明日、20人増やす必要があります」ではだめ。「来週20人要ります」なら、集めることができます。

 カゴメはそういう仕組みを作りました。そのうえで、技術や設備を向上させたんです。

もっとも肝心な点ですが、利益は出るのでしょうか。

久枝:グロダンの次に、日東紡に入りました。日東紡は2009年に千葉県に1ヘクタールの施設を造り、トマトやパプリカを作り始めました。もともと農業資材の販売で歴史のある会社ですが、ここで作物を作り、販売しながら、実証実験をやっていたんです。

 1ヘクタールの施設で、1億5000万円の売り上げです。人件費が高いのと、立地のせいで税金が高いこともあって、利益率はそう高くありません。でも、これをふつうの農家がやれば、かなりもうかるレベルの売り上げです。

 3ヘクタールの施設なら、社長が1人、工場長が1人、その下に社員が2人、あとはパートで運営できます。社長の役割は対外的なつき合いや営業。工場長は特別に高度な人材である必要はなく、新しいことを吸収し、労務管理ができる人であればいい。コンパクトな組織で、そう難しくなく事業運営できます。

LEDを使ったトマトの補光試験圃場(オランダ、民間の研究・実証・研修・コンサル機関「Delphy社」)
LEDを使ったトマトの補光試験圃場(オランダ、民間の研究・実証・研修・コンサル機関「Delphy社」)

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