さらに追い打ちをかけたのが、特Aからの転落だ。2010年から5年続けて守ってきた特Aの座からすべり落ち、15、16年はそれぞれA、A’の評価になった。一部の消費者から一時的に疑問の声が出たとは言え、特Aであることは、森のくまさんのブランド価値を支えてきた。それを失ったショックは大きかった。

 「今後どう対応すべきか」。動揺が広がる稲作関係者の頭にあったのは、俗に言う「平成30年問題」、つまり2018年の生産調整(減反)廃止への対応だった。そこで選択肢がもう1つ浮上した。熊本県が新たな良食味の品種として、くまさんの輝きを推奨し始めたのだ。

 県が視野に入れていたのは、まさに減反廃止だ。減反廃止で各産地が増産に走れば、米価には下方圧力がかかる。だから価格競争から距離を置くことのできるブランド米が欲しい。ところが、肝心の森のくまさんは特Aの座を失ったうえ、高温に弱いという難点もある。その点、くまさんの輝きは高温にも強い。県はこの新たな品種を「リーディング品種」と位置づけた。

ブランド化に向けたルール策定

 森のくまさんと同じ轍を踏むのを避けるため、県と農協、コメ卸などが話し合って産地を絞ることも決めた。「推進ガイドライン」で、標高100~300メートルでの生産を中心することにしたのだ。コメは一般に寒暖の差が大きい山あいで作ったほうがおいしくなるとされている。そこで、平地と高冷地を除く地域で作るよう定めたのがこの基準だ。農薬と化学肥料の使用を減らす特別栽培を原則とすることも申し合わせた。安全・安心や環境への配慮を求める消費者の需要に応え、ブランド化するためのルールだ。

 本格デビューは減反廃止の2018年。その前年、2017年のランキングでは参考品種の扱いながら、特Aを取ることにも成功した。森のくまさんを育ててきたJA鹿本でさえ、「全面的にくまさんの輝きに移行すべきではないだろうか」という声が出た。ところが、土壇場で事態が再び急転した。森のくまさんが同じ年に特Aに返り咲いたのだ。

 これで、JA鹿本は森のくまさんをやめ、新たな品種のくまさんの輝きを武器に減反廃止に突入する決断ができなくなった。いくら県が推奨し、参考品種として特Aをとっても、消費者にとって、くまさんの輝きはほとんど無名の品種。これに対し、熊本県の職員がかつて喜びの涙を流したように、森のくまさんは首都圏でもそれなりに知名度が高まっているからだ。

「くまさんの輝き」はまだ希少な品種(熊本市にある直売所「you+youくまもと農畜産物市場」)

 結論から言うと、JA鹿本は2018年の森のくまさんの作付面積を前年並みの450ヘクタールとし、くまさんの輝きは15ヘクタール程度にとどめることにした。「生産者がある程度納得できる価格を示せないと、作ってもらうことはできない。だが、消費者に好まれないと、値段は高くならない。森のくまさんを減らしてまで、くまさんの輝きを作ってくれとはまだ言えない」。JA鹿本の担当者はこう語る。