そのころはコメのブランド競争は今ほど盛んになっておらず、少なくとも関東では「九州でおいしいコメができる」という印象はあまり強くなかった。長年東北や新潟の印象が優位に立つ中で、「特Aの中で最高」の評価はブランドのイメージを一新するうえで十分なインパクトがあった。当時、熊本県の女性職員が銀座のデパートで森のくまさんが山積みになっているのを見つけ、「うれしくて涙が出ました」と語っていたのを思い出す。

日本一の称号を得て噴出した弊害

 ところが、日本一になったことが、森のくまさんのブランド価値の向上の足を思わぬ形で引っ張ることになった。実際に食べてみた一部の消費者から、「これが本当に日本一のコメか」という疑問の声がわき上がったのだ。もともとは、コメの主産地を抱える鹿本農業協同組合(JA鹿本、山鹿市)などが育ててきた品種だった。日本一の称号を得たことで、県内のあちこちで森のくまさんを作るようになったことが原因との指摘もある。

 ここは「産地」という単位で味を競い合う食味ランキングに伴う難しさだ。検定協会のホームページには次のようにある。

 「米の食味ランキングは、主な産地品種銘柄について、当協会がその供試試料を食味試験した結果に基づいて評価するものであり、流通するすべてのお米を評価しているものではありません」

 言わずもがなのことだろう。それでも、特Aの冠が生産者と販売業者、消費者の間で一人歩きし、取引の材料になるのを避けるのは難しい。

コメの食味テスト風景(写真提供:日本穀物検定協会)

 厳密に言えば、同じ品種を作っても農家の腕によって味は変わる。同じ農家でも、田んぼによって微妙な差が出る可能性もある。だが、そこまで細分化してしまってはまとまった量を確保することができず、ブランドを成立させにくい。そこで、「産地」をどこまで広げるかが焦点になる。

 森のくまさんの場合、日本一になったことを受け、熊本県内で作付けが広がった。特Aはブランドの象徴であり、売価にもプラスに働くので、作りたくなるのは当然のことだ。だが、広い地域で新たに作り始めると栽培経験の差が出たり、気候条件の違いが影響したりして、食味を統一することが難しくなる。森のくまさんでも、そうした点が食味に響いた可能性がある。