だからこそ、「勘と経験が大切」と言う人もいます。

久枝:日本のほうが難しい。それでも、やらざるを得ないし、克服できるんです。オランダはコンピューターを使った環境制御を何十年もやっていて、データの蓄積があります。日本は同じ環境ではありませんが、オランダにあるたくさんの引き出しから、「こうやったほうがいい」という例を探すことができます。それを、我々はやってきました。

 トマトを実らせるため、生殖生長に傾ける条件はいろいろあります。例えば、肥料の濃度を上げる。昼と夜の温度差を広げる。温度差を4度から8度にすると、生殖生長に傾く。いろんなオーソドックスな型があるんです。日本の環境を踏まえたうえで、海外でうまくいった例を当てはめればいい。ノウハウはそうやって作っていくんです。

 篤農家の頭の中にノウハウがあるというやり方では、ノウハウを作りにくいじゃないですか。それだと、「この人に弟子入りしなければならない」ということになる。データを活用すれば、弟子入りしなくてもいいんです。

競争と淘汰のリアル

日本とオランダの差は何が原因なのでしょうか。

久枝:日本の場合、国のいろんな支援制度があって、完全には競争していないようにみえます。それが、栽培技術や販売で頑張ろうというインセンティブを働きにくくしていて、経営者が生まれにくい構造がずっとありました。

 オランダには産業としての農業があります。基本的に補助金はありません。設備投資には補助金が出ないので、銀行からお金を借りるために事業をきちんと説明する必要があります。

 先進的なビッグプロジェクトには公的なお金が出るケースもあります。例えば、石油産業の技術で2キロぐらい穴を掘り、お湯をくみ上げて暖房に活かすといったケースです。これを個人でやるのは難しいですが、誰かが成功すれば、ほかの人も使えるので、そこに補助金が出ることはあります。

 日本にも、新しい技術の開発を支援する制度はあります。でも、誰もやったことがないような、本当に革新的な技術だけが対象にはなっていないのではないでしょうか。

農業経営の競争条件がかなり違いますね。

久枝:私がオランダで学んでから15年以上たちました。当時は平均で1ヘクタールぐらいでしたが、いまは7~8ヘクタールになっています。残ったのは、技術的に優れていたり、マネジメント能力が高かったりするころです。競争を通して淘汰されたんです。それがオランダの現実です。

 私が行った農場の1つは、0.5ヘクタールでした。経営者は「もうからない。このままやって赤字になる前に、もうやめる」と話していました。そのあとは、別の農場で働いたりします。

 作業者として優れていても、ほかの農場に勝てるかと言えば、そうではありません。上手にお金を借りてきたり、上手に売ることができたりしないと、事業として成り立ちません。当時、すでにそういうことが起きていました。